以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0378
「賛」の旧字体から新字体への変化は、いつごろ、どのようにして起こったのですか?
A
「賛」の旧字体は「贊」で、ちゃんとJIS漢字にも入っているのですが、画面上だと小さくて見にくいでしょうから、まずは画像にしてお見せしておきましょう。左が新字体、右が旧字体です。
新字体というと、戦後の国語改革によって新たに作られた字体だと思われがちですが、中には、それ以前から使われていた漢字も多く含まれています。「賛」はその代表格のようなもので、小社『大漢和辞典』にもきちんと収録されています。
その『大漢和』の「賛」のところを見ると、『集韻(しゅういん)』という中国の昔の辞書を引用して、「贊、隷に賛に作る」と書いてあります。「贊」は、隷書(れいしょ)では「賛」と書いた、という意味です。隷書といえば、紀元前1、2世紀、漢王朝の時代に使われた書体ですから、「賛」はそのころから存在した漢字だ、ということになります。
そこで、隷書よりも以前から存在したと言われている篆文(てんぶん。篆書)の「賛」と、隷書の「賛」とを見比べてみましょう。図の左が篆文、右が隷書です(隷書は、いつもお世話になっている角川書店『書道大字典』から拝借しました)。篆文では、そのまま楷書にすると「贊」になりそうな形をしていますが、隷書では紛れもなく「賛」になっていることがわかります。
つまり、「賛」が新字体で「贊」が旧字体、と言ったって、「賛」だってずいぶんと年をとっているわけです。40歳を目前にしながら、童顔のためにどうしても若輩視されがちな私にとっては、なんだか身につまされるお話なのでした。