以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0324
「漢」という字は、「漢字」「痴漢」などと使いますが、水には関係なさそうなのに、どうして「さんずい」が付いているのですか?
A
Q0208でご説明した通り、「漢字」の「漢」は、現在では中国大陸に住む人の大多数を占める、民族の名前を表しています。私たちがふつうに「中国人」と言っているとき、それは民族名では「漢民族」のことを指していることが多いのです。
この「漢」という字は、今でこそ、数億人の同胞を抱える大民族の名前になっていますが、もともとは、中国のある地方を流れる川の名前でした。この字に「さんずい」が付いているのは、そのためです。そして、紀元前3世紀の終わりごろ、その川が流れる地域を根拠地にして、やがて中国全土を支配するようになった王朝が、漢王朝だったのです。
漢王朝は約400年の長きにわたって、中国大陸を支配しましたが、やがて滅亡の時がやってきます。その結果、紀元3世紀ごろから中国大陸は分裂の時代に入ります。そんな中、中国大陸には異民族がたくさん入り込んでくることになりました。
当初、そんな異民族たちは漢民族を指して、「漢」と呼んでいたことでしょう。ところが、このころに中国大陸に入り込んだ異民族たちは、やがて漢民族の中に吸収されていきます。どうやらその過程で、「漢」という字は、民族名としてだけでなく、一般名詞としても使われるようになったようなのです。この字は、「男性一般」を表すようになっていくのです。
「痴漢」という熟語での「漢」の使われ方は、この用法です。「痴漢」の場合は、男性は男性でも、軽蔑の対象としての男性ですが、「漢」は、尊敬の対象としての男性を表すこともあります。「好漢」といえば、立派な男性のことを表す熟語です。
民族名であれ、男性全体の呼称であれ、「漢」という字が含み持っている「さんずい」は、その壮大な歴史の糸口になった、川の流れを今に伝えているのです。