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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0297
「天」の2本の横棒は、上と下のどちらが長いのが正しいのですか?

A

この字は、活字の字形と手書きの字形との違いを示す、いい例です。古くからの活字の字形を調べてみると、現在、私たちがよく使っている活字と同じように、「天」の字は、一貫して上の横棒の方が長いのです。ところが、手書きの字形を調べてみると、今度は逆に、下の横棒の方が長いのが圧倒的なのです。
では、いったいどちらが正しいのでしょうか?
029701この漢字の甲骨文字を見てみると、図のような形をしています。だれしも、子どものころ、こんな図形を描いたことがあるでしょう。また、シャーロック・ホームズ物語の「踊る人形」を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。
そう、これは人間の形を絵にした文字なのです。そして、この字の「○」のような部分は、頭の部分を特に強調している印なのだと言われています。つまり、この字は本来、人間の一番上にある部分を意味する漢字で、それが転じて、一番上にあるもの、「天」を表すようになったのです。
以上の説明は、字源の世界ではめずらしく、だいたい諸説一致するところです。この説明から、「天」の2本の横棒の長短について、なにか得るところがあるでしょうか。
手を広げた幅より頭が大きいのは不自然ですから、下の方を長く書くのは、一見、合理的にも思えます。でも、実際のサイズに合わせてしまっては強調にもなんにもなりやしないと考えれば、上の方を長く書くのにも、一理あるのです。
結局、どっちもどっちです。明朝体活字の字形と、筆書きの字形とは、そもそも使われる線の太さや勢いからして、違いがあります。そういった違いを踏まえた上で、明朝体の場合には上が長い方が美しく見え、筆書きの場合は逆の方が落ち着きがいいと判断されてきたのでしょう。どちらが正しいというわけではないのです。
このように、活字の字形と手書きの字形との間には、往々にして、不一致が見られます。漢字の形を考えるときには、そのことを知っておくのが重要です。

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