当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0276
「比喩」の「喩」の右半分と、「輸入」の「輸」の右半分とは、同じものですか、違うものですか?

A

027601字が小さいと見にくいですから、拡大して右のような画像にしてみました。両者の違う部分は、屋根の一番上の部分に出っ張りがあるかないかと、「月」に似た形をしている部分の中の2つの点が、傾いているかいないか、そしてその右側が「く」を2つ並べたような形をしているか、「リ」のような形をしているか、の3つです。
結論から申し上げると、両者は基本的に同じものです。成り立ちから見ると、「喩」の方が字源に忠実なので、こちらの方がより「正しい」形だとされています。とすると、「輸」の方はどうしてこんな形をしているのでしょうか。
現在、私たちがふつうに使っている「輸」は、新字体です。ということは旧字体があるわけで、実は、旧字体では、この漢字の右半分は、「喩」の右半分と同じ形をしていたのです。つまり、旧字体から新字体に変わる際に、この部分の形は改められたのです。
だとすると今度は、どうして「喩」の方は改められなかったのか、という疑問が生じることでしょう。その理由は、「喩」は当用漢字でも常用漢字でもない、というところにあります。
新字体というのは、戦後の国語改革で当用漢字が制定されたときに、新しく基準とされることになった字体です。当用漢字とは、漢字の使用を「当用漢字表」に掲載された1850字の範囲に制限しようとするものでしたから、その範囲外の漢字については、無視されることになりました。そのため、当用漢字以外の漢字については、新字体は決められなかったのです。
当用漢字が改訂されて、1945字からなる常用漢字になったとき、その「制限」色は薄まりましたが、選ばれた1945字以外の漢字の字体については、特に定めは設けられませんでした。その結果、「喩」は昔ながらの字体として存続している、というわけです。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア