以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0275
JIS第2水準にある「渣」という字は、右下が「且」になっている場合と「旦」になっている場合がありますが、どちらが正しいのですか?
A
字形で悩むとき、解決の糸口をつかむ方法の1つは、その漢字の成り立ちを考えることです。この漢字の音読みはサですが、問題の部分が「且」だとすると、右側の部分全体は「査」となり、その音読みもサとなります。とすると、この漢字は「さんずい」+「査」の形声文字だと考えることができて、成り立ちとしてはたいへんすっきりします。
一方、問題の部分を「旦」だと考えると、その音読みはタンですから、形声文字の原理には合いません。そこで、問題の部分は「且」である方が正しい、ということになります。
では、問題の部分が「旦」になっている漢字は、どうして存在しているのでしょうか?実は、これは誤字がそのまま残ってしまっているケースなのです。
図の左側は、平成明朝というフォントでこの字を表示したもの、右側はMS明朝というフォントでこの字を表示したものです。同じ漢字でも、フォントを切り替えるとこのように別の漢字になってしまうのです。
JIS漢字が制定された当初は、JISの規格票では、この漢字は右側のように表示されていました。つまり、この時点でJISには誤字が載っていたということになります。しかし、1990年の改定で、この字は左側のように訂正されることになりました。その結果、JISの規格票では正しい字となったのですが、いまでも、古い規格票の字形のままになっているフォントも、少なくないのです。
ただし、JISの規格票だけを責めるわけにはいきません。この誤字は、もとはと言えば『康熙字典(こうきじてん)』にさかのぼることができるのです。JISとしては、『康熙字典』どおりに表示しただけなのでしょう。
それはともかく、フォントによって字の形が異なるケースは、時折見かけられます。これはインターネットなどでは特に困った問題で、送り手と受け手とが違うフォントを使うと、違う字になってしまうのです。おそらく、このページをご覧いただいているみなさんの中にも、質問文に出てくる「渣」の字が、「且」になって見えている方と、「旦」になって見えている方の両方がいらっしゃることでしょう。これはいまのところ、私たちのレベルではどうしようもないのです。
なお、JISの規格票は平成明朝というフォントで作製されています。そこで、ワープロなどで規格票どおりの字形を使いたいという場合には、このフォントを使用するのがよいでしょう。