当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0253
「図」という漢字の中の部分は、何を表しているのですか? 他の漢字では見かけない要素のように思うのですが。

A

たしかに珍しい形をしていますよね。「図」は、旧字体では「圖」と書くのですが、これがどうして「図」と省略されるに至ったのかは、よくわからないというのが正直なところです。
025301現在、中華人民共和国で使われている簡体字では、「圖」の字を図のように(ちょっとややこしくてごめんなさい!)省略しています。これを見ると、「冬」の音読みトウを借りて、「圖」の音読みトを表しているのか、とも思われますが、現代中国の共通語(北京語)ではこの両者の発音はだいぶ違います。もしかすると、南方の方言の発音に拠っているのかもしれませんが、なんにしろ、中国でも日本でも、「圖」の略し方にはスッキリしない部分が多いのです。
025302ところで、書道の世界では、この字はかなり古くから省略されて書かれていたようです。それもそのはず、「口(くにがまえ)」の中に、さらに「口」がたくさん含まれた複雑な字形を、毛筆で書こうとするのは、たいへんな作業だったに違いありません。角川書店の『書道大字典』には、「圖」の省略字形がたくさん収録されていますが、その中に、4世紀後半の書家・王献之(おうけんし)のものとして、図のような「圖」(またまたややこしくてごめんなさい!!)が載っています。これが、中国の簡体字の祖先になるのでしょう。
025303さらに『書道大字典』を調べていくと、16世紀前半の書家・王寵(おうちょう)が書いたという字として、図のような「圖」(もう繰り返しませんよ!)が見つかりました。新字体を制定するにあたって、当時の国語審議会関係の人たちが、全くオリジナルな字体を考え出したとは思えません。おそらく巷では、「図」という略字が使われていたのでしょう。その起源は、この王寵の字あたりにあるのかもしれませんね。

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