以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0242
「覇」の旧字体は「霸」のようですね。「雨」がどうして「西」のような形になったのですか?
A
『康熙字典』や『大漢和辞典』を調べると、「覇」は「霸」の俗字だと書いてあります。ただし、いわゆる新字体と旧字体の関係ではありません。
この字の字源を調べてみると、例によって諸説があるのですが、「雨」と「革」と「月」とから成り立つという点は一致しています。これらから考えると、「覇」はもともと「霸」と書くのが正しかったと言えるでしょう。
しかし、いつもお世話になっている『書道大字典』(角川書店)を見てみると、古の名書家たちの筆跡はほとんどが「覇」になっています。おそらく、字体としては「霸」の方が正しくても、手書きされる際には、5~6世紀ごろには、「覇」が使われるようになっていたのでしょう。
さて、その理由ですが、基本的には、「雨」の点を4つ打つのがめんどくさかったのだ、と推測されます。しかし、「雨」かんむりの字は他にもたくさんあって、それらが「西」のような形に変化していない以上、やはり、この字だけの特殊な事情があったの考えるべきでしょう。
それは、おそらく意味上の問題だと思います。「雨」かんむりの字は、当然ながら雨に関係する意味を持つのが基本です。しかし「覇」の場合、そういった意味は早いうちに失われて、主に「覇者」「覇王」「覇権」などに見られる「一番力の強い人」という意味でのみ使われるようになりました。そのため、「雨」かんむりとの意味的な関連がなくなり、省略して「西」のような形を書いても、おかしいと感じにくかったのではないでしょうか。
以上の推測が正しいとすると、意味が変化することにより、消極的ではありますが字形の変化を促したわけで、漢字とはやっぱり、奥が深いものだと思います。