以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0101
「女」という漢字の2画目は3画目の横棒より少し出す、と子供が教わってきたのですが、私は確か「出さない」と習ったと記憶しています。どちらが正しいのですか?
A
漢字の世界には、「これが正しい」「これが間違っている」と言い切れる白黒はっきりした領域と、「どちらでもいい」というグレーゾーンとがあって、このグレーゾーンが実は意外と広いのです。そして、ご質問の内容は、そのグレーゾーンに含まれる問題です。
グレーゾーンは、グレーですから、人によっては「これが正しい」「これが間違っている」と言い切ってしまう場合もあります。戦後、当用漢字が制定されて以降、日本の漢字教育は、グレーゾーンをできる限り認めない方針で行われていたようです。図は、『当用漢字字体表』に示されていた「女」の字形です。これを見ると、2画目は3画目の横棒より上には突き出さない形になっています。当用漢字表の時代には、この字形に厳格に従った「女」でないと「間違い」だ、と教えられることが多かったと聞いています。
しかし、そういった厳格すぎる漢字教育には批判もありました。そこで1981年に常用漢字が制定されるにあたって、字体についてはゆるやかに扱うように方針が変更になりました。ここに掲げたのは、Q0078でもご紹介した、『常用漢字表』の「前書き」に付された、「(付)字体に関する解説」という文書の一部です。ここでは、問題の部分が異なる2種類の字形が掲げられ、「どちらでもよい」とされているのです。
現在の教育現場で、「女」の2画目は3画目の横棒より少し出す、という指導が行われているとすれば、それは、『小学校指導要領』の「学年別漢字配当表」の字形(図に示しました)に厳密に従っているからだと想像されます。しかし、別にここが突き出なかったら「性格のまるい女性」を、突き出たら「つんけんした女性」を表すようになるわけではないのです。どちらも同じ「女性」を表す漢字として、立派に通用するはずです。
漢字本来の意味とはなんの関係もない部分にこだわる教育をしていると、漢字の世界を難しくするばかりで、子供たちの漢字に対するイメージを悪くしているのではないかと、そのことが心配でなりません。