以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0228
「樹」の真ん中の一番上にある部分は、「土」ですか、それとも「士」ですか?
A
私たちが日常で用いる漢字の字体について考えるときは、まず第一に、『常用漢字表』を参照すべきでしょう。これを見てみると、問題の部分は下の方が短い「士」の形になっています。従って、「士」の形で書いておくのが、現代日本では「正しい」と言ってよいでしょう。
しかし、いろいろ調べてみると、問題はそう単純ではないことがわかってきます。いくつかの漢和辞典を眺めてみると、下の方が長い「土」の形になっているものも、けっこうあるのです。そこで、当用漢字制定以前の活字の字形を調べてみると、どうやら半々のようです。つまり、歴史的に考えた場合、どちらの字形もそれなりに流通していたようなのです。
しかし、漢字の成り立ちから見たときには、下が短い「士」の方に軍配が上がるのではないでしょうか。といいますのは、「樹」の真ん中の部分は、「喜」の上半分や、「鼓」の左半分と共通しているからです。この共通部分は、Q0203でも触れたように、何らかの打楽器の象形文字だといわれています。「樹」も「喜」も「鼓」も、みんなこの共通部分を元にして生まれてきた漢字ですから、その形は同じであるべきでしょう。そこで「喜」や「鼓」について考えてみると、これらは下が短い「士」で書く方が一般的です。だとすれば、「樹」の場合も、同じように書く方がよいのではないか、と判断できるのです。
『常用漢字表』が、上記のような判断をしているのかどうかはわかりません。しかし、『常用漢字表』を根拠としても、成り立ちから判断しても、同じ結論になるわけですから、問題の部分は下が短い「士」と書く方がよい、と結論づけてよいように思われます。