以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0177
「歯」という漢字は、「止」という部分と下の部分のあいだに隙間があるのとないのと、どちらが正しいのでしょうか。
A
問題の部分に隙間があると「歯抜け」の意味、隙間がないと「健康な歯」の意味、というふうにでもなればおもしろいのですが、残念というかありがたいことにというか、そんなことはありません。当館の基本的な考え方からいきますと、問題の部分によって意味が変化したり、別の字になってしまったりしない以上、どちらでもよい、ということになります。
ただし、しいてどちらかを規範とせよ、とおっしゃるのであれば、隙間がある方になるでしょう。と申しますのは、明朝体活字のほとんどは隙間がある方のデザインになっていますし、手書きの場合の基準となりうる教科書体活字も、同様だからです。
図は、歯抜けの口をそのまま描いたあまりうまくない絵のように見えますが、実は「歯」の甲骨文字です。この漢字は、甲骨文字の段階では、このようにわかりやすい象形文字だったのです。それがやがて発音を明示するための「止(シ)」と組み合わさって、現在の字形になったといわれています。そんな経緯を考え合わせても、「止」の部分を独立させておいた方が、成り立ちがわかりやすい、ということもできるかもしれません。