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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0082
「松」と「枩」、「略」と「畧」など、構成要素の配置が変わっても同音同義の漢字はたくさんありますが、「忙」と「忘」の場合は、構成要素の配置が変わると違う意味になっていしまいます。これには何か理由があるのですか?

A

「忙」の部首「りっしんべん」は、もともと「心」という漢字が変形したものですから、たしかに「忙」と「忘」とでは、構成要素だけを取り出すと同じ漢字だといえます。しかし、「忙しい」は「いそがしい」、「忘」は「わすれる」で、意味は全く違います。
しかし、これに理由があるかといいますと、なかなかはっきりとしたことは答えられません。この2字の場合、現在では意味が全く違うとはいえ、「心ここにあらず」というような視点から眺めれば、意味の共通性がありえます。また、「忙」の字形は、紀元1世紀ころの漢字辞書『説文解字』(せつもんかいじ)には見あたりませんし、この字はもと「間の抜けたようす」を意味していて、「いそがしい」の意味で使うのは、唐王朝や宋王朝のころ(7~13世紀)以降だともいいます。以上から考えると、「忙」と「忘」は、もともとは同音同義の異体字だった可能性もあるのです。
同様の漢字のペアとしては、「裏」と「裡」があります。どちらも「衣」と「里」から成り立っていて、もともと同音同義です。しかし現在では、「裏」は「うら側」の意味で、「裡」は「うち側」の意味で、それぞれ使い分けるのが一般的です。また、「脇」と「脅」も実はもともと同音同義ですが、現在では、前者は「わき」という意味でしか使われず、後者は「おどす」という意味でしか使われないとみなしてよいでしょう。
構成要素の配置が変わると、意味だけではなく音読みまで変わってしまう漢字も、たくさんあります。たとえば、「含」(ガン)は「ふくむ」ですが、「吟」(ギン)は「うめく・うたう」です。「細」(サイ)と「累」(ルイ)なんていうのもあります。これなんかは、言われるまで、構成要素が同じとは気づかないのではないでしょうか。「棘」(キョク・とげ)と「棗」(ソウ・なつめ)などは、同じ構成要素を2つ合わせているのにもかかわらず、全く違う漢字になってしまう例です。
漢字の世界というのは、漢字の神様が系統立ててお作りになったわけではなく、私たち罪深い人間たちの手によって、自然発生的に作られたものですから、かならずしも体系だってはいないのです。

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