以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0064
人名で、「於」の左側が「てへん」になっている字をと書いて「お」と読ませている人に出会いましたが、この字がワープロ辞書では見つけられません。
A
図のような漢字ですね。この字は、「於」の異体字です。音読みはオ、訓読みだと「おいて」となります。残念ながら、JIS漢字には登録されていないので、現在のところ、普通のコンピュータで扱うことはできません。
調べてみますと、この字形はかなり古く、中国では6~7世紀ごろ、北魏(ほくぎ)や唐といった王朝の時代から見られますから、由緒ある異体字といえそうです。この字体の字源を考えてみますに、一見すると、「於」の「方」の部分を崩して書いているうちに、「てへん」に変化してしまったものとも思われます。
しかし一方で、「於」という字は、もともとはカラスという意味の漢字として誕生しています。図に掲げた2つは、いずれも金文(きんぶん)の字形ですが、カラスの象形文字であることが、なんとなく伝わってきませんか。
とにかく「於」という漢字は、字源的には「方」となんら関係を持つものではないようです。このことと「てへん」の字形が古くから存在していることを考え合わせますと、図のようなカラスという意味の漢字を共通の祖先として、「於」と「てへん」の字形の2つが生まれ、そのうち現代では「於」だけが残った、とも考えられそうです。