当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0077
「京」と書いて、「ちか」と読めるのですか?

A

これはたぶん、人名でのことですよね。
漢字の読み方の中には、日本人の名前(下の名前)に使われるときに限って用いられる、特殊な読み方があります。そんな読み方のことを、やや専門的には「名乗」(なのり)と呼んでいます。
周りの人の名前を、思い浮かべてみてください。特に珍しい名前でなくても、実はふだんはあまり使わない読み方をする漢字が、あふれているはずです。「剛」を「つよし」と読むのもそうですし、「靖」を「やすし」と読むのもそうです。
いま例に挙げた2つは、それぞれ「剛」には「つよい」という意味があり、「靖」には「やすんずる」という意味がありますから、訓読みの一種として説明することもできます。しかし、「昌」という漢字は、日本人の名前を離れては「まさ」とはまず読みませんし、「光」という漢字も、同様に「みつ」とは読みません。これらはみんな「名乗」なのです。
名乗の世界では、「どうしてそう読むのか?」という疑問に答えるのは非常に難しい問題です。小社の学習用漢和辞典『新漢語林』には、歴史的によく使われる名乗を収録してありますが、「京」の場合、「あつ・おさむ・たかし・ちか・ひろ」が収録されています。
これらのうち、「たかし」は、「京」という漢字にもともと「小高い丘」という意味があるのを知ると、納得できる読み方です。また、京が政治の中心地であることを考えると、「おさむ」も納得できそうですし、大きな街であることから、「ひろ」もなんとかなりそうです。しかし、それ以外の「あつ」「ちか」には、そういった名前が付けられたときにはなにか理由があったのでしょうが、今となってはそう簡単には納得はいかないようです。なんらかの古典に基づく格調高い読み方であるのかもしれませんし、とんちめいた読み方なのかもしれません。
それでも、「京」という漢字を「ちか」と読む名前が、昔から存在していたことは、確かです。よくわからないけれどそう読む、というのが名乗の世界なのです。

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