以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0352
名前の漢字の読み方の中には、とても特殊なものも多いと思いますが、あれは一種の当て字なのでしょうか?
A
名前の漢字の特殊な読み方については、Q0077やQ0092でも取り上げたことがあります。そこでもご説明したとおり、名前の漢字というのは、今ではどうしてそう読むのかわからないような読み方も多いのです。そういった、名前独自の読み方のことを、「名乗(なのり)」といいます。
そこからしますと、「名乗」は「当て字」である、と考えることもできます。しかし、よく考えてみるとこの「当て字」なるもの自体が、実は定義のはっきりしないものなのです。
「当て字」を国語辞典で調べてみると、たいてい、「ある漢字を、その本来の意味や読みに関係なく用いること」といった説明がなされています。この「本来の意味や読み」というのがくせものです。いったい、どこからどこまでが「本来の意味」なのでしょうか。
たとえば、「ただしい」が「正」の本来の読み方であるというは、まず異論のないところでしょう。そこで、「正」を「ただし」と読むのは、本来の読みに基づいたものであると考えられます。しかし、「忠」を「ただし」と読むとなると、事情は違ってきます。「忠」の本来の意味は「まごころ」です。そこで、「まごころ」を持っているということは人間として「ただしい」ことである、と考えれば、この字を「ただし」と読む説明はつきます。これは、本来の意味に基づく読み方なのでしょうか、それとも、そうでないのでしょうか。
このように、日本語の中での漢字の読み方は非常にアバウトで、特に名前では、その特徴が強く表面に出てくる傾向にあるのです。名前の読み方に理論を持ち込もうとするのは、やめておいた方がよさそうです。