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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0081
「吉」という字には、人名として使われているものとして、「口」の上の部分が「土(つち)」のものもあると思うのですが、パソコンでは「吉」の字しか出てきません。「土(つち)」のものは、使われなくなったのでしょうか?

A

「吉」という漢字の字源については、例によっていくつか説があるようですが、「士」のような形をした部分は、刃物の象形だともいいますし、また、壺のふたの象形だともいいます。
前者に従った場合、「士」という漢字そのものと同源ということになりますので、下の横棒の方を短く書いておくべきだということになります。また、後者に従った場合でも、「壺」の上部の「士」を、下の横棒を短く書く以上、同じように書いておくべきだ、ということになります。「吉」の上半分を「土」(つち)ではなく、「士」(さむらい)と書く根拠は、このあたりにあると思われます。
しかしお尋ねのように、人名において、「土」(つち)と書く「吉」の字が用いられることは、しばしばあります。この字は「吉」の異体字ということになるわけですが、これを業界では「つちヨシ」と呼んでいます。ニックネームがつくくらいに、有名な字なのです。
008101同様にニックネームがついている異体字には、「はしごダカ」「たつサキ」があります。「はしごダカ」とは、「高」という字の上の「口」の部分がはしごのようになっている字を、「たつサキ」とは、「崎」の「大」の部分が「立」に似た形になっているものを指します。いずれも非常によく見かける漢字であるにもかかわらず、JIS漢字の第1・第2水準には入っていません。私はひそかに、この3文字を、人名異体字三兄弟、と呼んでいます。
008102この人名異体字三兄弟のうち、「はしごダカ」君は、実はIBM外字と呼ばれる外字セットに含まれていて、Windows系のOSであれば、パソコン上で扱うことができます。また、「たつサキ」君は、JIS漢字の第3・第4水準に収録されましたので、いずれ、パソコン上で扱うことができるようになると思われます。
かわいそうなのは「つちヨシ」君です。あわれなことにこの子だけは、パソコンの世界から閉め出されてしまっているのです!しかし、だからといって、「つちヨシ」君の住民登録まで抹消してしまうのは、それはあんまりです。彼は立派に現役です。その証拠として、私が週に一度はお世話になっている牛丼屋さんの写真をお目にかけましょう。「つちヨシ」君が大活躍していることを、きっとご理解いただけるはずです。

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