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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0037
日本史に出てくる「倭寇」には、「倭冦」という表記もあるようですが、どちらが正しいのですか?

A

「宀」(うかんむり)と「冖」(わかんむり)の違いですね。点のあるなしくらい、どうでもいいといえばどうでもいいことですが、気になりだすと気になってしかたがないその気持ち、よくわかります。
このことば、『国史大辞典』(全15巻、吉川弘文館)では「宀」で出ています。また、高校日本史の教科書でも、同じく「宀」で出ていることが多いようです。これらからすると、「宀」が正しい、といえそうです。
この字は、字源的には諸説あります。「完」と「攴」から成り、家の中にいる囚人(完)をむち打つ(攴)形とするもの、同じく「完」と「攴」から成り、完全に取り巻いた家(完)に押し入る(攴)形とするもの、また「宀」と「元」と「攴」とから成り、家(宀)の中にいる人(元)をたたく(攴)形とするもの、などです。
ここで重要なのは、いずれの場合も「家」が関係していることです。「宀」とはもともと家の形をかたどった象形文字ですから、これらの字源説から判断しても、この漢字では「宀」を使うのが正しいといえます。
ちなみに「宀」は、字形の類似からよく「冖」と間違えられ、それが定着してしまったものも多くあります。たとえば「写」はもともと旧字体で「寫」、この「宀」が「冖」に変化して「冩」と書かれたものが、現在の字体の元になっています。
その他にも「冤罪」(エンザイ。無実の罪)の「冤」にも、「寃」という異体字があります。調べていくと、「冗」にも「冥」にも、それぞれ「宀」の異体字があるから驚きです。ここまでくると、もうどうでもいい、という感じもしてきますね。

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