以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0488
「殺」という漢字の左半分は、独立した漢字として存在していますか?
A
漢和辞典で調べると、「殺」の部首は「殳」となっています。この部首は、カタカナのルと漢字の「又」が組み合わさったように見えることから「るまた」と呼ばれることもありますが、また「ほこづくり」と呼ばれることもあります。
この部首に所属する漢字をいくつか挙げてみましょう。たとえば「殴」「殺」「毀」。それぞれ訓読みすれば「なぐる」「ころす」「こわす」となって、なにやらコワモテの漢字ばかり。ぶっそうなところに紛れ込んでしまったような感じがしますが、それもそのはず。この部首が「ほこづくり」と呼ばれるのは、「殳」が本来、武器の一種「ほこ」を意味する漢字だからなのです。コワモテの漢字が並んでいるのも、うなずけます。
さて、問題はこのうちの「殺」ですが、この漢字は旧字体では「木」の肩に点を1つ打って、図の左側のようになっています。そこで、その左半分を独立させると図の右側のようになるわけですが、小社『大漢和辞典』の中には、この漢字がちゃんと収録されています。
とはいえ、その解説はそっけないもの。音読みは「サツ」、意味は「殺」と同じだ、ということだけしか書いてありません。これでは堂々巡りだよ、とコワモテとはほど遠い私も、文句を言いたくなります。
実際のところ、「殺」の成り立ちについては、諸説あるようで、この左半分が本来意味するところについても、イノシシの象形という説が有力なようではありますが、異説もあります。結局、この字は実在はするものの、実態はハッキリしない漢字だと言うしかなさそうです。