以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0462
「矍鑠(かくしゃく)」の語源を教えてください。
A
紀元48年、後漢という王朝が支配していた中国でのこと。南方で反乱が起こったという知らせに、出陣を願い出た1人の将軍がいました。その名は、馬援(ばえん)。歴戦の勇将でしたが、すでに、数えで62歳。時の皇帝・光武帝(こうぶてい)は、老齢を理由に出陣を許しませんでした。
すると馬援、「私はまだ鎧も着られれば、馬にだって乗れます」と言って、実際に馬にまたがって、周りの者を見下ろして見せました。これを見た皇帝が笑って言ったことばが、「矍鑠としているな、このじいさんは!」
モノの本によると、以上のお話が「矍鑠」の語源だとされています。つまり、年を取っても元気でいることを「矍鑠」というのです。
この話、とてもおもしろいのですが、これが「語源」だと言われてもちょっとナットクいかない、という人もいらっしゃるのではないでしょうか。だって、「矍鑠」ということばがこの時初めて世に現れたのだとすれば、いかに皇帝陛下のおっしゃることとはいえ、周りの人にはなんのことだか意味がわからなかったに違いないからです。
「矍鑠」ということばは、その発音から推測して、おそらく擬態語だと思われます。「矍」「鑠」という漢字は当て字のようなもので、それほど深い意味はありません。現代日本語に翻訳すれば、「ピンピンしている」といった雰囲気でしょうか。
もし、光武帝がこのことばを創ったのだとすれば、それは、その場の馬援将軍の様子をうまく表現した、なにか新鮮な擬態語であって、それがあまりにもぴったりしていたために定着したものだと思われます。
1980年代、「ルンルン」という擬態語を世に広めたのは、作家の林真理子さんでした。ひょっとすると光武帝という人には、流行語を生み出す才能があったのかもしれませんね。