以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0452
「奥」の下の部分は、「八」と書くのですか、それとも「大」と書くのですか?
A
どちらが正しいのか、二者択一で答えてください、と言われれば、「大」と書くのです、とお答えすることになるでしょう。でも、例によって、この問題もなかなかヤヤコシイのです。
活字の字形としては、「奥」のこの部分が「大」であることに異論はありません。図は左から明朝体・ゴシック体・教科書体の一例ですが、いずれを見ても「大」となっていることが、おわかりいただけるでしょう。
ですから、手書きする時でも「大」と書いておけば、文句を言われる筋合いはなさそうです。ただし、「八」ではいけないのか、と言われると、そうでもなさそうなのです。
試みに、角川書店の『書道大字典』を開いて、「奥」がどのように書かれていたかを調べてみましょう。図の3つはいずれも、中国の唐王朝(7~9世紀)のころに書かれた文字。一番左のように「大」になっているものもありますが、右の2つのように「八」のパターンのものも多いのです。
というわけで、Q0019やQ0029以来何度も申し上げてきたように、ここでも、活字の字形と手書きの字形との間には、微妙な違いがあると考えるべきだと思われます。事実、現在でも、書道のお手本などでは、「八」のパターンになった「奥」を認めているものもあるのです。
漢字の世界は「奥」が深い、とは常日ごろから思っていることですが、その「奥」そのものもまた「奥」が深い、というお話でした。