以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0435
「強」という漢字には、どうして「虫」が入っているのですか?
A
字源に関する基本的な文献、『説文解字(せつもんかいじ)』を見ると、「強」に関しては図のように記述されています。この短い記述の上半分をわかりやすく説明すると、まず一番上に「強」という字が示されていて、その次に書いてある妙な形をした図形は、篆文(てんぶん。篆書)の「強」。そしてその下には、「強」は「虫へん」に「斤」と書く漢字と同じである、と書いてあります。
そこで問題になるのが、この「虫へん」に「斤」なのですが、これは、コクゾウムシという、固い殻をかぶった昆虫の一種を表す漢字だ、とされています。つまり、「強」とは本来、コクゾウムシを表す漢字であって、その殻が固いことから、「つよい」という意味へと変化してきた、というわけです。
もっとも、例によってこれには異説もあって、白川静先生の『字統』(平凡社)によれば、「強」に含まれる「虫」はおそらく蚕(かいこ)のことで、この漢字は本来、蚕から取った糸を張った弓のことを表していた、ということになります。その弓の強さから転じて「つよい」という意味になったというわけです。
たしかに、「強」とペアになる「弱」にも「弓」が含まれていますから、「強」の成り立ちを「弓」とからめて説明するのは、整合性があるように思われます。真実を解明するにはタイムマシンでも発明するほかないわけですが、白川先生の説にも、魅力的な美しさがありますよね。