以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0418
「栄」「蛍」「営」の上の部分は、どの辞書にも冠として載っていません。部首ではないのでしょうか。
A
それだけ取り出すと図のようなものですが、たしかに冠に見えますよね。「なんとか冠」と名前が付いていそうなものです。でも、残念ながら、これは部首ではないのです。
その理由の1つとして、これらの漢字がすべて新字体である、ということが挙げられます。「栄」の旧字体は「榮」、「蛍」の旧字体は「螢」、「営」の旧字体は「營」。つまり、問題の「冠もどき」は、新字体になって生まれた形であって、伝統的な漢字の世界から見ると、異端児なのです。
となると、こんどは図のような冠があってもよさそうなのに、と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、部首とは本来、意味と字形による漢字の分類方法なのだということを、思い出してください。「栄(榮)」は、本来は木が盛んに茂ることを表す漢字で、部首は「木」。「蛍(螢)」はムシですから、部首は「虫」。「営(營)」は説明がちょっと長くなるのでやめておきますが、これらからわかるように、この「冠もどき」は、旧字体の世界に戻ったって、部首にはなれやしないのです。
ああ、かわいそうな「冠もどき」!とはいえ、別に部首になることだけが幸せってわけでもないでしょう。他人からうらやまれる地位にあっても、不幸な人はたくさんいます。人にはそれぞれ、幸せの形というものがあるものです。