以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0416
「幸せ」と「仕合わせ」の違いを教えてください。
A
小社『明鏡国語辞典』で「しあわせ」を調べてみますと、一番最後に「表記」という欄があって、次のように書いてあります。
偶然性を重視するときは「仕合わせ」も好まれる。
なるほど、という記述ですが、なぜ偶然性と「仕合わせ」が結びつくのか、そこまでご説明しないと、このQ&Aコーナーの海千山千の読者のみなさまには、許してもらえないでしょう。
「しあわせ」という日本語の語源は、「し合わす」だとされています。「し」は動詞「する」の連用形。つまり、何か2つの動作などが「合う」こと、それが「しあわせ」だというのです。別のことばで言い換えれば、「めぐり合わせ」に近いでしょう。
自分が置かれている状況に、たまたま、別の状況が重なって生じること、それが「しあわせ」だったのです。ですから昔は、「しあわせ」とはいい意味にも悪い意味にも用いたようです。偶然めぐり合った、よい運命も悪い運命も、「しあわせ」だったのです。
さて、現在の私たちは、語源のことはすっかり忘れて「しあわせ」ということばを使っています。ただ、「仕合わせ」と書く場合、「仕」は当て字ですが、「合わせ」の方に、「しあわせ」が本来持っていた、偶然性の名残を見ることもできるでしょう。そこで、たまたま訪れてきてくれたハッピーな状況のことを表したいときには、「仕合わせ」と書くのが好まれる、というわけです。
なお、「幸」という漢字の成り立ちについては、Q0364でご説明したとおり、また別のちょっとマゾ系の物語があります。「しあわせ」といっても、人それぞれ、ということでしょうか。