以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0407
古文書を読んでいると、「古」の下に「又」を書いて「事」の代わりに使っていることがありますが、あれも正しい漢字なのですか?
A
図の左側のような漢字ですね。それは、「事」の異体字です。「事」の異体字にはさまざまな種類があって、たとえばJIS漢字にも入っている「亊」なんてのもありますが、図の右側のような漢字も、やはり「事」の異体字なのです。
しかし、ここに掲げた2つの異体字は、「事」とはかなり字形が違います。異体字だと言われても、腑に落ちない気持ちがするのもよくわかります。
「事」という漢字は、篆文(てんぶん。篆書)では図のように書きます。このうち、下半分のカタカナの「ヨ」を引き延ばしたような部分は、実は、「又」の篆文と同じ形をしています。つまり、「事」という漢字は、篆文に戻れば、「中」の上に横棒をもう1本引いたような形と、「又」とからできているわけです。
とすると、上図の右側の漢字も、篆文に基づくれっきとした漢字であり、左側の漢字はその派生形であると考えられます。一見すると、私たちがよく知っている「事」とは全く形が違いますが、彼らは彼らなりに「正しい」漢字なのです。
漢字は、その長い歴史の間に、さまざまな変化を遂げながら、私たちの元へと流れてきています。古文書などには、そういった変化の跡が、まざまざと残されていることがあるのです。