以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0273
「浜」の旧字体の「濱」の画数は、17画ですか、18画ですか?
A
結論から言うと17画なのですが、何度数え直してみても18画にしかならない、という方もいらっしゃることでしょう。その原因は、点のあるなしにあります。
たとえば小社『大漢和辞典』の「濱」の字は、図のような形をしています。よく見てもらえばわかりますが、右上の「宀」の下、「少」に似た部分の右側の点がないのです。仮にこの点が存在するとすれば18画になるのですが、現実は17画なのです。
伝統的に「濱」の字は、この17画の形が正しいとされてきました。その理由はと聞かれても、残念ながら確実なことをお答えすることはできません。ただし、この字形だと書くときにバランスが取りにくく、「少」の字のように点をもう1つ加えたいと考えた人は多かったようです。柏書房の『異体字解読字典』には、俗字として図のような字形が挙げられていますから、18画の字形も民間では存在していたと思われます。
そういう人が多かったからでしょうか、戦後の国語改革の際、「ご来賓(らいひん)の方々」の「賓」という字が当用漢字に入るにあたって、点が1つ多い字体が採用されることになりました。このことが、「濱」の画数をよけいにややこしくしています。
「濱」は、「賓」に「さんずい」を付けた形声文字です。したがって、「濱」の右半分と「賓」とは同じ形をしていなくてはいけないのですが、後者は当用漢字に入って新字体となって点が1つ増えたのに対して、前者は当用漢字に入るときに新字体としては「浜」の字体が採用されたので、点が増えないままだったのです。
その結果、新字体の「賓」と同様に点を1つ多く打つ「濱」の字が、世の中で多く使われるようになったようです。パソコンのフォントなどでも、点が1つ多いものをときどき、見かけることがあります。
18画の「濱」は、漢和辞典的には誤字ですが、以上のような事情があるので、同情に値します。誤字と決めつけるわけにはいかないでしょう。