以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0167
「品質」という熟語は、最近では「経営品質」「サービス品質」といった、品物の質とは関係のない使われ方もしますが、こういう使われ方は正しいのでしょうか?
A
「品」という漢字は「口」3つから成り立っていますが、別に「くち」と関係があるわけではなく、もともとは、さまざまなものが並んでいる状態を表していたと言われています。そこでこの漢字の本来の意味は、単なる「もの」ではなく、むしろ「ざまざまな」の方にあったのではないかと考えられます。さまざまなものがあると、自然とその中の優劣が問題となり、そこで「ものの性質」という意味が生まれてきたのでしょう。
このことは、現在でも私たちががよく使う「上品」「下品」「品評」「品格」「気品」「品行」といった熟語の「品」の字が、「しなもの」の意味ではなく「性質」という意味で使われていることを考えても、よくわかるのではないかと思います。
そこで、「品質」についても、この熟語のもともとの意味は「品物の質」ではない可能性が考えられます。むしろ、「品」も「質」もともに「性質」という意味で使われているのではないか、と思われるのです。
小社でかつて出版していた『月刊しにか』2002年7月号の特集2「漢語の履歴」の「品質」の項(陳力衛執筆)によりますと、「品質」は日本人が英語のqualityに対して作り出した訳語で、その初出は1887(明治20)年の『附音挿図和訳英字彙』という、長い名前の辞書だそうです。この辞書には、qualityの訳語として他に「本質」「特質」「性質」が挙げられているそうですから、この時点では「品質」には「品物」の意味はなかったと考えてよさそうです。
しかし、陳先生によれば、早くも明治の20年代から、「品質」を「品物の質」という意味で使うことが一般的になったそうです。現在では、たとえば小社『明鏡国語辞典』の「品質」の項では、「品物の質」の意味以外は記述されていません。漢字の字面の影響力の大きさというものを、あらためて感じさせる事例といえましょう。
以上から考えますと、「経営品質」「サービス品質」といった「品質」の使い方は、先祖返りしたような使い方だといえそうです。ただし、グローバル化が席巻するビジネスの世界のことですから、それぞれがquality of managementやquality of serviceの訳語だという可能性も大いにあります。とすると、意図的に先祖返りをしてみせたというよりは、直訳が無意識に先祖返りを生んだ、というだけのことなのかもしれません。