以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0137
「かぜ」は漢字では「風邪」と書きますが、どうしてこう書くようになったのですか?
A
もちろんこれは当て字なのですが、当て字に関して「どうして」と聞かれてしまうと、ちょっとお答えに困ることがあります。
鈴木棠三編『日常語語源辞典』(東京堂出版)によりますと、「かぜ」という日本語の語源は、もともと「か」は気、「ぜ」は風を意味することばだとされているそうです。空気が動くことを「かぜ」と言ったのを、それを通じて伝染する病気にも転用した、というわけです。
一方、「風邪」と書いてフウジャと読む漢字熟語はれっきとした古典中国語で、『大漢和辞典』にもちゃんと出ています。紀元1~2世紀の統一王朝・後漢の歴史を記した『後漢書』という書物には、庭園や離宮に出かけるのを好んだ明帝という皇帝を、賢妻として名高い馬皇后が「風邪露霧を以て戒め」た、という記述があります。漢文の素養がイマイチなもので、これを解釈するのは勘弁していただきますが、『大漢和』ではこれを引用して、「風邪」に「かぜひき」という意味を当てていますから、古代の中国でも「風邪」は、現代日本と同じような意味を表していたのでしょう。
この「風邪」という中国語が日本に入ってきたとき、同じ意味を表す「かぜ」という日本語でそれを理解した、というのが、「風邪」を「かぜ」と読むようになった始まりなのではないかと思われます。つまり、「風」「邪」という漢字1字1字が持っている音や意味と、「かぜ」という読みの間には、あまり関係がないということになります。
なんとなくナットクいかない感じもするのですが、これが当て字の当て字たるゆえん、ともいえそうです。