以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0098
「好」「嫌」「婚」「始」「姿」などなど、「女」が付く漢字はとてもたくさんあるのに、「男」が付く漢字が少ないのはなぜですか。
A
たしかにそうですね。「男」が付く漢字ですぐに思い付くのは「甥」「舅」、それに「虜」くらいでしょうか。ただし「虜」は、「慮」という字があることを考えればわかるように、2つに分けるとすれば「虍+田」と「力」に分かれるので、「男」が含まれているように見えるのは、偶然です。
それはともかく、そもそも、漢和辞典には「女」という部首はあっても、「男」という部首はないのです。このことは、昔から指摘されてきていて、やはり、古代中国の男尊女卑の考え方が背景にあるのだと言われています。
阿辻哲次先生の『漢字の字源』(1994年、講談社新書)には、「男と女の漢字学」という1章があって、そのあたりについてかなり詳しく考察がなされています。たとえば、「女」という字は、もともと甲骨文字では図のような形をしていて、これは「手を前に組み合わせてひざまずいている人」の象形文字だとされています。なぜ「ひざまずいている人」が「おんな」なのかというと、それは古代中国では、女性が男性に隷属させられていたからとしか言いようがない、とおっしゃるのです。
また、同書には、「男」という字についても、興味深い説が紹介されています。それによると、「男」はもともと「おとこ」という意味ではなく、一定の土地を管理する役人のことを表しており、それは現在でも「男爵」ということばに残っているのだというのです。そして、その証拠の1つとして、甲骨文字での「男」という字の使用例がきわめて少ないことを挙げていらっしゃいます。
以上のようなことを考えますと、古代中国では、単に人間といえば男性のことであって、特別な漢字を作る必要がなかったのかもしれません。そして、女性は特別な人間であったがために、女性に関するさまざまなことを表す特別な漢字が、数多く作られたのかもしれません。