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近刊先読み

偏愛的漢詩雑記帖

「漢字文化資料館」人気の連載を書籍化

 

 漢詩研究の専門家である著者が、有名無名にかかわらず「偏愛」する漢詩を選んで、紹介・解説します。誰もが知っている「春望」や「長恨歌」から、あまり触れられることのない明・清時代の詩まで、扱う詩はさまざまですが、どれも通説だけによらない著者の解釈が盛り込まれ、作者の漢詩への「愛」が伝わります。
 書籍化にあたっては、大幅な加筆を行い、書き下ろしも加えました。

 

著者メッセージ

 曹操、陶淵明、杜甫、白居易、蘇軾――そういった中国詩史にそびえる山なみを眺めてみると、彼らの詩はペシミスティックな甘い抒情に浸ってはいない。さまざまな困難にこうしながらも、人の力を信じ、生を肯定する力強さにあふれている。中国の文学ならではの魅力がここにある。

(本書30ページ)

 

目次

先秦
     ミサゴとオスプレイ 「関雎」

後漢
     見つめ合う二人 「古詩十九首」 其の十


 曹操  老いたる名馬 「歩出夏門行」

 曹丕  友愛と疫病 「朝歌令呉質に与うる書」

東晋
 陶淵明 繽紛と散る桃の花 「桃花源記」

南朝・宋
 陸凱  春をプレゼント 「范曄に贈る」

盛唐
 王維  静寂と人の声 「鹿柴」

 李白  髪は真っ白 「秋浦歌十七首」 其の十五
     月光のもと、影とたわむれる 「月下独酌」
     水平線に消えてゆく船 「黄鶴楼に孟浩然の広陵に之くを送る」
     ぼくの大好きな孟先生 「孟浩然に贈る」

 高適  旅の空で年を越す 「除夜の作」
     一面の白雪、一面の白梅 「塞上 笛を吹くを聴く」

 杜甫  大水に胸を躍らせる 「江漲る」
     はだしで氷を踏む 「早秋 熱きに苦しみ 堆案相い仍る」
     一瞬の再会 「衛八処士に贈る」
     インスピレーションとAI 「韋左丞丈に贈り奉る二十二韻」
     愛すべきやから 「酔時の歌」
     国破れて山河在り 「春望」

中唐

 孟郊  身と心のせめぎあい 「夜に感じて自ら遣る」
     詩人は世界を弄ぶ 「鄭夫子魴に贈る」

 韓愈  土地と季節 「夕べに寿陽駅に次り呉郎中の詩の後に題す」
     ミルクのような早春の雨 「早春 水部張十八員外に呈す二首」 其の一

 劉禹錫 怒りを秘めた桃の花 
    「元和十年、朗州より召を承けて京に至り、戯れに花を看し諸君に贈る」

 白居易 梨花一枝 春 雨を帯ぶ 「長恨歌」
     あじさいの花 「紫陽花」
     短命の花・長寿の木 「放言五首」 其の五

 李賀  鬼気と夭折 「雁門太守行」

晩唐
 李商隠 今をかぎりと鳴きしきる 「蟬」
     恋の夢 「元城の呉令に代わりて暗かに為に答う」
     夢とうつつ 「錦瑟」


 陸游  猫はいつでも猫 「猫に贈る」
     物売りの声 「臨安にて春雨 初めて霽る」
     山を尋ねて村に出逢う 「山西の村に遊ぶ」


 高啓  形なき物に形を、声なき物に声を 「青邱子の歌」


 黄仲則 月のように明るい星 「癸巳の除夕 偶成」

 龔自沈 詩も時代とともに
     「春より秋に徂ぶに、偶たま触るる所有り、拉雑として之を書き、漫として詮次せず 十五首」

日本・室町
 一休  一休の真意 「大燈忌宿忌以前、美人に対す」

あとがき

 

著者

川合康三(かわい こうぞう)
1948年、浜松市生まれ。京都大学文学部(中国文学専攻)卒、同大学院博士課程中退。博士(文学)。東北大学助教授、京都大学助教授を経て、同教授、同大学院教授。退職後に台湾大学招聘教授、ブランダイス大学招聘教授、國學院大學特別専任教授。現在、京都大学名誉教授。
主な著書に、『終南山の変容――中唐文学論集』、『中国の詩学』(研文出版)、『中国の恋のうた』、『漢詩のレッスン』、『新編 中国名詩選』(岩波書店)、『新釈漢文大系 詩人編 杜甫』(明治書院)など。

 

*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。

 

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