以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0326
「生」という漢字には150種類以上の読み方があるそうですが、ふつうに知られているもの以外に、どんな読み方があるのですか?
A
私も、そういう話は読んだことがあります。ただ、「その150種類以上」なる読み方を一覧にしたものには、いまだお目にかかったことはありません。そこで、その全貌についてはよく知らないのですが、知っている範囲で「生」の読み方を挙げてみることにしましょう。
まず、音読みから。ふつうに辞典を調べると、「生」の音読みとして、セイ(漢音)とショウ(呉音)が載っています。「人生」「一生」などが具体例です。これらの音読みは、ときには濁音になってゼイ・ジョウとなることがあります。「平生」はヘイゼイと読みますし、「誕生」はタンジョウです。
これらのほかに、唐音と呼ばれる種類の音読みとして、サンがあります。これはソモサンという特殊なことばで使われるのですが、漢字で書こうとするとJIS漢字以外の漢字を使わなくてはいけなくなるので、省略します。以上、音読みは5つあります。
次に、訓読みです。「生(い)きる」「生(う)まれる」「生(お)い立ち」「生(は)える」「生(き)糸」「生(なま)ビール」あたりは、問題ないでしょう。ほかには「芝生(ふ)」「鈴生(な)り」なんてのを思いつく方もいらっしゃるでしょう。これで8つ、音訓併せて13です。
これで終わりではありません。「生田」の場合は「いく(た)」、「生垣」の場合は「いけ(がき)」、「生憎」と書けば「あい(にく)」または「あや(にく)」、「生粋」なら「きっ(すい)」、「生方」は「うぶ(かた)」、「相生」は「(あい)おい」、「壬生」は「(み)ぶ」。「生業」は「なり(わい)」「すぎ(わい)」と読みます。
微妙なものもあります。「弥生(やよい)」の場合、「生」は「よい」なのか「い」なのか?「桐生(きりゅう)」や「埴生(はにゅう)」の場合は、「生」は「ゆう」と読んでいることになるのでしょうか?「生絹(すずし)」といえば生糸の一種のようですが、この場合の「生」は、なんと読んでいることになるのでしょう?
こんなふうに数え上げていくと、150には遠く及びませんが、なるほど、「生」という漢字はさまざまな読み方がされていることがわかります。とはいえ、それらすべてが、本当に「生」の読み方だと言えるのかどうか、とも思います。特に、最後の方に挙げた「弥生」「桐生」「埴生」「生絹」などは、2文字でそう読むのであって、「生」単独で読まれるものではないからです。
そういった問題まで含めて、「生」という漢字には、漢字の読み方のさまざまな側面が見られることはたしかです。それは、「生きる」ということがいかに複雑で悩み多いものであるかを象徴しているのではないか、と勘ぐりたくなるくらいなのです。