当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0078
教科書体の活字をみると、「発」の部首の「癶」は1画目と4画目が離れていますが、「登」の1画目と4画目は接しています。同じ部首「はつがしら」でありながら、書き方が違うのはなぜなのでしょうか。

A

漢和辞典の編集作業の中に、「字形チェック」と呼ばれる作業があります。文字通り、収録予定の親字の字形を細かくチェックしていくのですが、まあこれが、時間はかかるわ単調だわ、というわけで、漢和辞典編集者にとって難行苦行の1つであります。そしてさらに悩ましいことには、この作業、何度くり返しても終わりがないのです。
007801どういうことかと申しますと、たとえばある活字書体で、「盾」という漢字の4画目の縦棒が、「循」では真っ直ぐなのに、「楯」ではやや右斜めに傾いていたとしましょう。このことに気づかなかった時代はなにごともなくハッピーだったのに、いったん気づいてしまうと、「盾」を含む漢字全てをチェックしなくてはならなくなるのです。
007802またたとえばある活字書体で、「虍」(とらかんむり)の「卜」の縦棒と「七」の縦棒の位置関係が、「劇」では一直線上にあるのに、「虚」では少しずれているのを発見したとしたら……。
このように、漢字の字形の相違を細かく見ていくと、これまでにない発見が常に存在して、いつまでたっても終わりにはならない、というのが実感です。
前置きが長くなりましたが、お尋ねの「癶」の1画目と4画目の位置関係も、同じ部類に属します。「どうして『発』と『登』とで違うの?」と聞かれれば、「たぶん、その書体をデザインした人の癖ですよ」とでも答えるしかありません。
007803漢和辞典編集者にとって朗報なのは、常用漢字の時代になって、「このような細かい差異はあまり気にしなくてもよい」というお墨付きが、文部省(現・文部科学省)から与えられたことです。『常用漢字表』の「前書き」には、「(付)字体に関する解説」という文書が添えられていて、その中で、明朝体を例にして、気にしなくてもよい字体の差異の例が列挙されています。幸いなことに、図に掲げたように、「癶」もこの中に含まれています。
もちろん、「あまり気にしなくてもよい」と「なんでもかまわない」とは全く別の話です。漢和辞典編集の「字体チェック」では、その漢字の字源的な意味や、他の漢字とのかかわりなどと照らし合わせて、「こうでなくてはならない」部分に関しては、きっちりと統一するように心がけています。
とはいえ、そう限定したところで、終わりがない仕事であることは変わらず、まったくブルーになってしまいます……。

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