サンキュータツオの細かすぎる国語辞典の読み方
第2回 表記編
日本語はひらがな、カタカナ、漢字の交じり書きをする言語です。
おなじ言葉でも、いろんな書き方があります。
たとえば「おなじ」を「同じ」と「おなじ」と書きますよね。
これを「表記」と言いますが、国語辞典は言葉をどう表記するか、という情報も載っています。
辞典のなかにある【 】とか[ ]のなかにある、▼とか▽のマーク、これについてよくわからない、という人も多いはず。でも、意味を知っていると、「そうだったのか!」と得する情報がいっぱいです。
おんなじ 【▽同じ】
「おなじ」も「おんなじ」も「同じ」という表記ですが、「▽同じ」は、「オフィシャルではないけれど、そう書くよ」という情報です。
ここで、辞典に載っている記号の意味を押さえておきましょう。この記号は、『明鏡国語辞典 第二版』をもとにしていますが、辞書によって異なります。
▼=常用漢字表にない漢字 (例)あおい【▼葵】
▽=常用漢字表で認められていない音訓 (例)あか‐がね【▽銅】
《 》=常用漢字表の「付表」の語 (例)あす【《明日》】
〈 〉=いわゆる「熟字訓」の表記 (例)え‐と【〈干支〉】
「常用漢字表」というのは、聞きなれないかもしれませんが、わかりやすくいうとオフィシャルかそうではないか、みたいなことが書いてあるルールブックみたいなものです。この字はこう書くのが一般的です、こういう読み方が一般的です、ということが書いてあるものです。一応、小学校から高校で習う漢字、ということになっていますが、そういった字のなかにも例外があって、上の例にある「付表」とか「熟字訓」も「例外」という意味です。例外には、▼、▽、《 》、〈 〉という記号がつくのです。
めん 【▼麵】〔名〕 明鏡初版 /めん 【麺】〔名〕 明鏡第二版
常用漢字表は、2010年に改訂され、それまで頻繁に使われているものの常用漢字表に入っていないものが多く採用されました。「麺」もそのひとつ。「めん」にも「麺」「麵」などいろんな書き方がありますが、このたび「麺」で統一しようか、ということになったのです。「▼」のマークがはずれた瞬間です。
常用漢字表が改訂されるということは、国語辞典のすべての漢字についているマークを再度チェックし変更することを意味しているので、編集者は大変です! 2010年以降この5年の間に、多くの国語辞典が改訂されましたが、まだ改訂されていない辞典が今後2,3年経っても改訂されなければ、それは改訂しない、というメッセージにもなっちゃいます。ファンはこのタイミングで、体力のある国語辞典かどうか、覚悟のある出版社かどうか、見極めるのです。
ボーイズ‐ラブ [和製 boys+love]
和製英語は、明鏡では原語の綴りの[ ]のところに「和製」と表示しています。
日本語は外国の概念・新しい概念を積極的に受け入れる言語だと思います。そして、それらを組み合わせて、日本独自の意味を持つ言葉を数多く生みだしています。
なかでも「ボーイズラブ」! 主要な小型国語辞典では明鏡国語辞典が一番早く掲載しています。おそらく現在、紙の書籍で項目を立てている唯一の辞書です。語釈には<〔俗〕漫画や小説などで、男性同性愛をテーマにしたもの。BL。>と書いてあります。しっかり「漫画」と「小説」と二つのメディアを取り入れているあたり、内部に好きな人がいるにちがいない!
◆蔵出し語釈◆
~サンキュータツオ的語釈の見所~
まるでレシピ本!? 作って食べるまでを詳説。
明鏡くんのグルメ項目もすごい。蕎麦好きなんだろうか。素材はもちろんのこと、「ゆでてつけ汁につけたり~」といった食べ方や、種類に関する記述も詳細である。種類のなかにも「天ぷらそば」まで入れてくれたところに、上になにか乗っける場合は「○○そば」という形になるということが説明されていて嬉しい。できれば「立ち食いそば」も入れて、と欲をかいてしまう。引っ越しそばの記述は来歴から触れているので、生活のなかの「そば」がどんな存在かもわかる。
*「蔵出し語釈」は『辞書のほん』15号(2014年10月)記事の一部をウェブ用に再編集したものです。