当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

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第1回 見出し編

 私が小型国語辞典の読み比べをするのは、有限なスペースにどのような情報を盛り込むのか、という各国語辞典のイノベーション競争を一覧できる楽しさからである。自動車に、エコなものや大勢乗れるもの、丈夫なものや軽いものがあり、それらが明確な設計理念によって作られているように、辞書にも設計理念がある。

 「明鏡くん」と私が呼ぶのは、その設計理念があたかもひとつの人格をもって主張してきているようにも思えるからだ。辞書も人が作ったものなのだという、温かみを少しでも感じてもらおうという気持ちからである。

 新語を積極的に採取している点では三省堂国語辞典がライバルだし、語釈に関しては新明解国語辞典より詳細に、用法と規範に関しては岩波国語辞典と肩を並べる厳格さ。明鏡くんには、「一番最近、国語辞典クラスに転校してきた新参者」としての努力のあとを感じずにはいられない。そしてそのことが結果的に、私のような日本語教育に従事しているものにとってはこの上ない一冊となっている。なぜなら当たり前のこともしっかり分解して説明しようとしてくれているからである。

 オールラウンダーに隙はないのか。私がこれから探したいのは明鏡くんの「隙」である。


記号に注目! 「-」や「・」が教えてくれること。

細かすぎる1_見出し_さかな

 「さかな」という言葉を『明鏡』で引いてみると、「さか-な」という見出しで「肴」と「魚」の二つが立っている。

 どうして「さかな」ではなく、「さか-な」という見出し語になっているのだろう。実は「-(ハイフン)」は、語の「切れ目」を記述していて、少なくとも二つの言葉が繋(つな)がってできたものだ、ということを示している。そこから語源を推測することも可能だ。「魚」では「酒(さか)菜(な)」の意、と語源情報も明記されている。

 見出しだけで語構成が分かる! 実は見出し周りは情報がたくさん詰まっているのです。

 


 ひらがな? カタカナ? 見出しで見る異文化交流。

細かすぎる1_見出し_ヘボン

 意外と気づかれないのが、かな表記。ひらがなとカタカナで書いているのにお気づきだろうか? 『明鏡』は和語と漢語はひらがな、外来語はカタカナと、見出しの表記を分けている。見出しの文字で語の種類が分かるのは日本語ならではだ。

 アメリカ人のヘボン、イタリアのローマ、そして日本のひらがなが共演している、なんと豪華な見出し! こういう見出しを見つけるにつけ日本語の柔軟性を嚙みしめることができるのである。

 

 

 


あなどるなかれ! 子見出しにも工夫がいっぱい。

細かすぎる1_見出し_エッジ

 『明鏡』ならではの子見出し! なかなかないですよ、この見出しは!
このように動詞とセットの連語(連絡をとる、みたいな慣用的に繋がっている語)のようなものを見出しに入れるかどうかは辞書の編集方針によるところが大きい! だからこそ見応えがある!

 たとえば「エッジ」という項目の用例で「―を効かせる」「―が効いている」「―の効いたデザイン」といった用例を載せることで、こういう助詞と動詞が後ろにくるんだよ、と暗に示すことはできる。しかし、そのなかからこの表現を見出しに入れたという編者の「想い」を汲み取りましょうみなさん! この表現だけはなかでもよく使用されているし、「の効いた」とか「が効いてる」よりもちょっと特別だよってことを示してくれているのだ!

 「・」(ナカグロ)は活用語尾を示しているので、どこから活用するかもよくわかる。学習する側からしたらこんなにやさしい辞書はないです。とくに外国人にとっては、カタカナの名詞がどういう動詞をとるかは難しい問題。いろんな学習者の要望に応えたいという気持ちがにじみ出てきますね!


◆蔵出し語釈◆
~サンキュータツオ的語釈の見所~
「品種が多い」って言うだけあるね!

細かすぎる1_見出し_りんご
 りんごは、対象が実在する名詞のなかでも、実は各国語辞典の記述がまるでちがう。それだけ生活に密着し、多面的に説明することが可能なものなのだが、紙面を割いてすべてを説明することができないがゆえに、各辞典でなにを説明するかわかれるところなのだが、明鏡くんは主婦かというくらい品種に詳しい。「スターキングデリシャス」って知らなかった! お買い物に同伴してもらうと頼もしい存在だ。

細かすぎる1_見出し_メイキョン

 

 

 

 

 


 *この記事は『辞書のほん』15号(2014年10月)16号(2015年1月)の記事をウェブ用に再編集したものです。

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