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新刊特集

新刊紹介

『李白と杜甫の事典』

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読み比べることで、新しい魅力が見えてくる

本書の5大特色

1 豊富な情報量

 李白117篇、杜甫154篇を収録。日中の最新の研究成果を反映した語釈・解説が現代語訳に活かされ、李杜詩の世界を豊かに伝えます。

2 比較の視点が充実

 「生涯」「旅」「詩の世界」…。同じ視点で比べて読むからこそおもしろい、新たな李杜の魅力が満載です。

3 詩はテーマ別に配列

 「自然」「家族」「戦乱」などの共通テーマに加え、「送別」(李白)や「天文と歳時」(杜甫)といった、李杜の得意分野の詩を並べて味わえる配列の妙。課題学習のテーマ選びにも。

4 背景知識がわかる

 李杜の生きた時代がわかる! 唐代の歴史・政治・地理・文化など、社会背景についても徹底解説。

5 唐詩の作法がわかる

 唐代に確立した近体詩のきまり、古漢語文法の基礎についても丁寧に解説。李杜作品だけで用例を網羅した、画期的な助字解説付き。

 

著者メッセージ

 ……本書の執筆を分担して感じたのは、やはり李杜の違いの大きさであり、この両者を同じ枠組みで叙述することの困難さであった。たとえば旅である。杜甫ならば、詩をもとにして足跡をたどり、旅の状況を具体的に考察することができる。それに対して李白では、旅情を詠んだ詩でも、それがいつ、どこで作られたのかわからないことが多いので、具体的な状況を再現する役には立たない。
 一方、杜甫のほうが難しいのは作品の分類である。李白ならば、離別・懐古・隠逸などのテーマが明確な詩があって、それらを軸にして分類ができる。しかし杜甫の主要な詩のテーマは、人間と社会に対する考察と詠嘆である。そこで、テーマとは別の観点も用いて分類する必要がある。しかし、このような困難に向き合ったことが、かえって李杜を理解する良い契機となったのも確かである。手にとってくださる方々も、本書から李白と杜甫のそれぞれの姿を生き生きと感じてくだされば幸いである。          

加固 理一郎

本書「あとがき」より

主要目次

 Ⅰ 李白と杜甫
 Ⅱ 李白
    李白の生涯/李白の旅/李白 詩の世界[付 文章]
 Ⅲ 杜甫
    杜甫の生涯/杜甫の旅/杜甫 詩の世界[付 文章]
 Ⅳ 李白と杜甫を知るために
  1 李白と杜甫の時代
    唐代の歴史/唐代の政治と官制/唐代の行政地理/唐代の文化
  2 文学史の中の李白と杜甫
  3 唐詩の形式
  4 李白と杜甫を読むために
    古漢語文法の基礎と助字の役割/李杜詩の語法と助字/
    李杜詩の助字用例解説

  付録
   年譜/諸本解題/参考文献/全作品一覧

   詩題索引


 

第一回 李白の旅(樋口泰裕)

 李白の生涯における足跡を線でつなぐのはたいへん難しい。したがって、その「線」に外ならない彼の旅をたどっていくのも易しいことではない。生涯にわたりおよそ旅をし続けた彼がうたった詩には、確かに訪れた土地のなにがしかを詠み込み、またその土地に住む人々に向けてうたわれたものが、恐らく相対的に杜甫よりは少ないとはいえ、相当数残されているのであるが、そうした中国各地に残された言わば「点」を時間に沿ってつなげるのがなかなか難しいのである。これまで、多くの先人が詩文を含む伝記資料に基づきながら李白の年譜を編んできているものの、杜甫などのそれと比べ、編者によってかなりの違いが生じているのは、まさにそのことを示している。……

「李白と旅」本書56-58ページより


 

第二回 杜甫「李白を夢む」(坂口三樹)

 夢李白 二首  李白を夢む 二首
  其一      其の一

死別已吞声   死別は已に声を呑めども
生別常惻惻   生別は常に惻惻たり
江南瘴癘地   江南は瘴癘の地
逐客無消息   逐客 消息無し
故人入我夢   故人 我が夢に入り
明我長相憶   我の長く相憶ふを明らかにす
恐非平生魂   恐らくは平生の魂に非ざらん
路遠不可測   路遠くして測るべからず
魂来楓林青   魂き来たれば楓林青く
魂返関塞黒   魂返れば関塞黒し
今君在羅網   今君は羅網に在り
何以有羽翼   何を以て羽翼有るや
落月満屋梁   落月 屋梁に満ち
猶疑照顔色   猶ほ顔色を照らすかと疑ふ
水深波浪闊   水深くして波浪闊し
無使蛟竜得   蛟竜をして得しむること無かれ   

 李白を夢にみて 二首  
  その一   
死別はもはや声を押し殺して耐えるしかないが、生き別れはいつまでも心がいたむ。  
江南は熱病を引き起こす毒気のたちこめる土地、そこに放逐された旅人からは何の便りもない。  
その旧友が私の夢に現れ、私があなたをいつまでも思い続けていたことを証明してくれた。  
どうも日ごろの魂とは違うようだが、道のりが遠いので推し測りようもない。  
魂がやってきたとき江南の楓樹の林は青々と茂り、魂が帰ってゆくとき辺境の秦州の町は黒々と横たわる。  
今、あなたは囚われの身であるのに、どうして翼を得てここに来られたのか。  
傾きかけた月の光が部屋の梁のあたりに満ちあふれ、まだあなたの顔を照らしているかのようだ。  
長江の水は深く波がはてしもなく広がっている。どうか蛟竜の餌食になることのないように。

 

至徳元載(七五六)、粛宗の弟の永王李璘(りりん)が江南で挙兵すると、廬山(ろざん)に隠棲していた李白は請われてその幕僚となる。しかし、永王の軍が政府から反乱軍として討伐されるに至って、李白も反逆罪に問われて潯陽(江西省九江市)の獄に繋がれ、乾元元年(七五八)には夜郎(貴州省桐梓県)に流されることとなった。その後、配所に赴く途中で大赦に遭った李白は、この詩が作られた乾元二年秋にはすでに自由を得て、長江を下りながら気ままな旅を続けていたが、遠く秦州(甘粛省天水市)にあった杜甫はまだそのことを知らずにいたらしい。詩は、そうしたある夜、李白の夢を見て作った二首連作の第一首である。……

「杜甫 詩の世界」本書480-485ページより


第三回 李杜詩の助字 用例解説(大橋賢一・渡邉大)

 ……また、文末におかれる語句である「些」もまた「矣」と同様のはたらきをしている。これは例えば「何為乎四方些(何をか四方に為すや)」(宋玉「招魂」)とあるように、主に『楚辞』に多用されている。『楚辞』に含まれる作品もまた、『論語』などと同じく、李白や杜甫にとっては古風な表現の一つであった。  李杜より後の、中唐の文人韓愈(七六八-八二四)は、復古主義者の一人に数えられている。北宋の黄庭堅は、杜甫と韓愈の詩について、「韓は文を以つて詩を為し、杜は詩を以つて文と為す(韓以文為詩、杜以詩為文)」(北宋・陳師道『後山詩話』)と指摘している。これは杜甫と韓愈の詩に散文的表現が散見されることを踏まえたことによる。韓愈が散文で用いられる語句を用い、復古的な表現が積極的にできたのも、李杜に影響を受けていたからにほかならない。

 李杜の助字の用法はこのように多様であって、これらの整理、検討なくして、李杜の魅力を探究することは難しい。本書に「李杜助字」をおく所以である。次項に示すように李杜の助字は多様であるが、個別に確認することで、李杜作品鑑賞の一助にしていただければ幸いである。

本書754ページより

「李杜詩の助字 用例解説」本書755-758ページ


(c)MUKOJIMA Shigeyoshi, 2019

編著者紹介

向嶋 成美(むこうじま しげよし)

1941年、福井県生まれ。筑波大学名誉教授、元文教大学教授。
東京教育大学文学部漢文学専攻卒業、同大学院文学研究科修士課程中国古典学専攻修了。専門は中国六朝文学。
主な著書に『中国古典詩聚花–山水と風月』(尚学図書)、『漢文名作選 文章』(共著、大修館書店)、『あじあブックス 漢詩のことば』(大修館書店)、『新釈漢文大系 唐宋八大家文読本 五』同『六』(以上共著、明治書院)などがある。

 

執筆者紹介(五十音順)                     
 
安 立 典 世(あだち のりよ)浜松湖南高等学校
大 橋 賢 一(おおはし けんいち)北海道教育大学旭川校
加 固 理 一 郎(かこ りいちろう)文教大学 
坂 口 三 樹(さかぐち みき)文教大学
谷 口 真 由 実(たにぐち まゆみ)長野県立大学
樋 口 泰 裕(ひぐち やすひろ) 文教大学
三 上 英 司(みかみ えいじ)山形大学 
村 田 和 弘(むらた かずひろ)  北陸大学
渡 邉 大(わたなべ だい) 文教大学 

「李白・杜甫全作品一覧」の作成にあたっては、筑波大学大学院生(編集当時)八名の協力を得た。
  荒川悠(あらかわ ゆう)
  宇賀神秀一(うがじん しゅういち)
  河合一樹(かわい かずき)
  茂野智大(しげの ともひろ)
  鈴木健斗(すずき けんと)
  出口誠(でぐち まこと)
  東海林達郎(とうかいりん たつろう)
  村越充朗(むらこし みちお)

 

※著者紹介は書籍刊行時の情報です

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