中国が生んだ秘技・煉丹術とは何か?
不死の薬を作り出すことができれば、永遠の生命を得ることができる――その可能性を信じて、不死の霊薬作りに挑み続けた者たちがいた。荒唐無稽にも思えるその営みのなかには、中国人の自然観・生命観が凝縮されている。煉丹術の主要経典を解読し、その理論と実践の軌跡を追う。
著者メッセージ
我々が本書で取り上げる「煉丹術」とは、端的に言えば、「不死になれる薬」を作る術のことである。このように言うと、生きているものはいずれ死ぬという自然の摂理に逆らう企てを取り上げて、何の益があるのかと思うもいらっしゃるだろう。確かに、中国において、紀元前の昔から連綿として試みられてきた不死への取り組みが、結局のところ、その最終目的の達成に至らなかったのは事実である。しかし、だからといって、それを単なる愚かな企てとして切り捨てるべきではないというのが、我々執筆者の考えである。
不死を願った者たちは、ただやみくもに不死の薬を作ったわけではない。彼らは、自然界を、そして人間という生き物を綿密に観察し、分析したうえで、死を避けるにはどうすべきかを考え、不死の薬の作製に挑んだ。つまり、現代の治病薬が、病因を分析したうえでそれに対処すべく作られているのに対して、不死の薬は、生きるとはどういうことか、死ぬとはどういうことか、そして死を避けるためには何が必要か、といった問題に正面から向き合った結果を踏まえて作られていたのである。したがって薬を作る材料、装置、手順など、煉丹術全般において、中国人の物に対する見方や、自然界に対する向き合い方が色濃く反映されている。煉丹術について知ることは、中国文化を知ることにつながるのである。
(「まえがき」より)
主要目次
Ⅰ 煉丹術入門
煉丹術とは何か
煉丹術の歴史
煉丹術の原理
Ⅱ 煉丹術の経典を読む
『周易参同契』――謎多き丹経の祖
『抱朴子』――外丹の根本経典
『老子中経』――内丹の源流
『霊宝畢法』――初期内丹の実践マニュアル
『入薬鏡』――初期内丹のキーワード集
『悟真篇』――聖典視された内丹書
『丹房須知』――外丹の実践マニュアル
補説 外丹の理論化――『参同録』と鉛汞説の展開
『金丹大要』――内丹説の総合化
『性命圭旨』――図版満載の内丹啓蒙書
『女丹合編』――女性のための内丹叢書
参考文献
あとがき
著者紹介
著者紹介
秋岡英行(あきおか ひでゆき)
1968年、兵庫県生まれ。1991年、大阪市立大学文学部卒業。1997年、大阪市立大学大学院後期博士課程単位取得退学。現在、大阪市立大学非常勤講師。訳書に『朱子語類』訳註 巻八十七~八十八(共訳、汲古書院)、論文に「術を以て術を伝う―陸西星『三蔵真詮』における扶乩」「朱元育の内丹思想―『悟真篇闡幽』を中心に」等がある。
垣内智之(かきうち ともゆき)
1968年、和歌山県生まれ。1992年、和歌山大学教育学部卒業。1997年、大阪市立大学大学院後期博士課程単位取得退学。現在、大阪市立大学非常勤講師。論文に「梁丘子の『黄庭経』解釈をめぐって」「星の光を呑む―存思による昇仙」「『上清大洞真経』の構成について」等がある。
加藤千恵(かとう ちえ)
1967年、愛媛県生まれ。1991年、愛媛大学法文学部卒業。2000年、大阪市立大学大学院後期博士課程修了。現在、立教大学教授。著書に『不老不死の身体―道教と「胎」の思想』(大修館書店)、訳書にリチャード・J・スミス著『通書の世界』(共訳、凱風社)、論文に「内景図覚書」「鉛汞小考」等がある。
*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。