生活にいきづく漢語の知られざる魅力を探る
音読みの漢字のことば、すなわち「漢語」を私たちは日常生活で何気なく使っている。しかし、「茶」に訓読みはあるか、「青春」が人生の春をさすのはなぜか、「一期一会」はいつどこで生まれた語かなど、ふと考えてみるとわからないことが多い。日本と中国の詩や文章などを挙げつつこれらの謎に思いをめぐらせて、豊かな漢語の世界を開く一冊。
著者メッセージ
日頃、疑問に思い、また、興味・関心をいだくことばに出会うことがある。そうしたことばのうち、本書は、身近な漢語について調べ考えたことを記したものである。主に教職の生活、国語施策の作業、漢和辞典の編集を通して気になった漢語である。漢語の多様性に触れ、諸領域にわたるように「目次」の副題に記す観点から選んだ。……
内容は随想的なものを中心に、既発表の論をつづめたものや意見・提言をとかし込んだものなどまちまちである。すべてに日本・中国の詩文と具体的な事例を盛り込みながら、人間、社会、文化面の広がりをもつように心がけた。
章立てからはみ出る項目もあるが、それぞれ話題は独立していて、いずれからも通じる構成になっている。身近な漢語の一端から広くことばの世界につながるきっかけになってくれれば幸いである。
(「はしがき」より)
主要目次
はしがき
付記
Ⅰ 読みのすがた
菊、蝶――古訓と漢字音
コラム1 「塔」の拡大と和名
出生(一)――出自と読み
出生(二)――読みの推移
洗濯――連濁の現象
時雨、紅葉――熟字訓(一)
黄昏――熟字訓(二)
Ⅱ 意味のうごき
青春(一)――漢詩における「青春」
青春(二)――明治文学の「青春」
コラム2 「白」の解字
遠慮――意味の日本語化(漢籍出自の語)
我慢――意味変化と類義語(仏典出自の語)
コラム3 「鉢」のいろいろ
亡命、泥酔――熟語構成字の意味
田、城、沢――日・中異義語
コラム4 「搾」と「榨」
Ⅲ 表現のはたらき
粛粛、蕭蕭――畳語型の漢語オノマトペ
深深と「しんしん」――漢字表記と仮名表記
コラム5 「弧」をめぐる語種
温故知新、如是我聞――四言の流れ
一期一会、一石二鳥――四字熟語の出自
柳眉、蛾眉――もの・ことのたとえ
蜂起、蛇行――動きの見立て
Ⅳ 文明とのかかわり
沸騰――古代漢語の再生と比喩
蒸発――蘭学者の造語
焦点――自然科学用語と比喩
コラム6 「麻」の意味と漢語
生産と製産――明治初期の訳語一斑
世紀――啓蒙思想家の造語
灯明台・灯台――実体の異なり
あとがき
要語索引
著者紹介
木村秀次 (きむら しゅうじ)
1938年 東京都生まれ
東京教育大学文学部卒業(1961年 漢文学科、1969年 国語学国文学科)。
東京都公立高等学校教諭、文化庁国語調査官、千葉大学教授などを歴任。
著書:『研究資料 漢文学』「語法・句法 漢字・漢語」(明治書院)
『近代文明と漢語』(おうふう)など
編著に『現代漢和辞典』(大修館書店)など
*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。