文豪の魂を培った芸術の都での青春時代――。
居酒屋でビールの大杯を重ね、美しいカフェの女給と戯れ、友人と湖畔で子どものようにはしゃぎまわる、24歳の森鷗外。「家長」「軍医総監」といった厳格なイメージで語られがちな文豪にとって、自己を解放できたミュンヘン留学時代は、近代と葛藤した文豪の人生の中でも、特異な光を放つ、〈奇跡の一年〉であった…。
「軍服を脱いだ」知られざる森鷗外の素顔を、彼を取り巻く友人や芸術たちの気風とともに瑞々しく描き出しつつ、当時のヨーロッパ近代都市の様相、芸術思潮、その歴史的転回をも浮き彫りにする書。
著者メッセージ
ミュンヘンにおける鷗外の日記で目立つのが、〈興(歓)を尽くす〉という表現である。ダンスホールで偶然出会った女性と卓につき、「酒を呼びて興を尽す」、学生仲間と遠足に出かけて大いに飲み、放歌し「興を尽して帰る」、(…)絶景の湖畔で「酒を呼びて興を尽」すなど、いろいろな場所で多様な人々と酒席を共にし、大いに笑い、はしゃぎ、酔い、戯れた思い出が率直に記されている。我々はここに、森林太郎という一人の若者の素顔を見る思いがするのである。(…)自己を解放できたミュンヘン滞在は、労苦に満ちた鷗外の人生の中でも、特異な明るい光を放つ〈奇跡の一年〉といってよい。本書が目指すのは、このような鷗外のミュンヘン生活を垣間見ることである」。
(「序 奇跡の一年」より)
主要目次
序 奇跡の一年
第一章 非日常の世界へ――越境する鷗外
カーニヴァル
バヴァリア像
アンデックス修道院
カフェ・ミネルヴァ
第二章 芸術の都ミュンヘン――画家たちとの交流
原田直次郎
ユーリウス・エクスター
ガブリエル・マックス
原田直次郎とガブリエル・マックス
森鷗外とガブリエル・マックス
第三章 シュタルンベルク湖 ――「その美言はん方なし」
『南独漫遊草』と『独逸日記』
遊覧船
レオニ
ロツトマン丘
「素食家」ディーフェンバッハ
第四章 ビールと女給――オクトーバーフェストにて
オクトーバーフェストの発祥と展開
オクトーバーフェストと植民地主義
女給の存在と魅力
ルートヴィヒとルイトポルト
結び 〈ルートヴィヒの時代〉の終焉
著者紹介
美留町義雄(びるまち よしお)
1967年、東京都に生まれる。立教大学文学部ドイツ文学科を卒業し、同大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ文学専攻)を満期退学。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、現在、大東文化大学文学部教授。森鷗外記念会評議員。専門は日独比較文学・文化研究。著書に『鷗外のベルリンー交通・衛生・メディア』(水声社、2010)がある。
*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。