漱石が歩いた坂から見える新たな文学空間
夏目漱石研究の第一人者が、「地理・場所」をテーマに、漱石作品の新しい楽しみ方を提示する。東京の地理に深く結びついた漱石の数々の作品を読み直し、都バスに乗ってまわる漱石文学ツアーでゆかりの地を体感する。
著者メッセージ
わたくしは、昔から地図が好きで、それを見ながら場所の光景を想像したり、逆に実際に見たことや発見を、地図の上で確かめたりすることも多かった。地名が要所要所に出て来る漱石の作品には、そうしたことを自然に誘うような不思議な魅力がある。東京の空間が、活字の向こうに広がり、人物のせりふや風貌をくっきりと浮かび上がらせる。漱石ゆかりの場所、作品に描かれた場所を訪ねることも、楽しかった。振り返ると、不思議とそうした視点からの文章を書く機会に恵まれた。「坂」と「台地」という視点で作品を読み直し、改めて『それから』などの長編の立体的な組み立てに驚いたりした。作品に描かれた地形や地勢を読むことは、作品の内部を読むことでもあった。
〈中略〉
この漱石の「地図帳」を手に、漱石のゆかりの場所を訪ね、時には坂道を登り、作品の一節を読み返し、思いもかけない風景に遭遇する経験をしてくださる方が、一人でも増えることを願っている。
(「あとがき」より)
主要目次
口絵ー凹凸地図で歩く漱石の世界
Ⅱ 「時代」の奥に潜むもの
『猫』と漱石
Ⅲ 「虚」の空間を歩く
Ⅳ 坂と台地からみた漱石作品
『坊っちやん』と漱石
あとがき
著者紹介
中島 国彦(なかじま くにひこ)
1946年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科日本文学専攻博士課程修了。博士(文学)。早稲田大学文学学術院教授を経て、早稲田大学名誉教授。日本近代文学館専務理事。
著書に『近代文学にみる感受性』(筑摩書房、1994、やまなし文学賞)、ほかに長島裕子との共著『夏目漱石の手紙』(大修館書店、1994)、共編『漱石の愛した絵はがき』(岩波書店、2016)がある。「彼岸過迄」注解(『定本 漱石全集』第7巻、岩波書店、2017)を担当。岩波書店『白秋全集』『荷風全集』編集委員。
*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。