激動の時代を生きた男の、詩に託した思い
著作を遺さなかった西郷隆盛だが、漢詩にはその時々の正直な思いを詠み込んでいた。本書では、西郷が遺した漢詩のなかから、中国の古典や故事に由来のあるものを中心に取り上げ解説しつつ、その心中にせまる。軍人・政治家の面にとどまらない、西郷の新たな人間的魅力を発見できる一冊。西郷隆盛略年表・人物相関図付。
著者メッセージ
漢詩には作者の魂が込められているわけで、西郷の漢詩を読めば彼の心に直に触れられることに気づいたのである。
〈中略〉
多くの漢詩の中からとくに中国古典に典故をもつ詩を選んだ理由は、幕末の志士たちから「胆力あり、学問あり」と評された西郷の文人的側面を浮かび上がらせたかったからであり、また、典故を知ることで、いっそう深く西郷の詩を理解できると思ったからである。
(「まえがき」より)
主要目次
まえがき
第一章 「死」の体験
一、偏に世上の寒を憂ふ――断腸の思い――
二、歳寒くして松操顕はる――堅い節操――
三、豈に図らんや波上再生の縁――死生の超越――
第二章 二度の遠島
一、天歩艱難獄に繫がるる身――天を怨みず、人を尤めず――
二、仰いで天に慚じず況んや又人をや――一片の氷心――
三、生死何ぞ疑はん天の附与なるを――国家への思い――
四、南竄の愁懐百倍加はる――ホトトギスの訴え――
五、富貴は雲の如く日に幾たびか遷る――理想の生き方――
第三章 倒幕の先頭へ
一、唯だ皇国を愁へて和親を説く――忠臣の鑑――
二、哲を守るは鈍に如くは無し――劉邦の軍師・張子房――
三、由来身貴くして素懐鑠く――火牛の計――
四、値十五城の珍よりも貴し――伯夷・叔斉の操――
五、史編留め得たり徳華の香――平重盛の徳――
第四章 鹿児島に一時帰国
一、夢幻の利名何ぞ争ふに足らん――孔子の清貧、荘子の隠逸――
二、市利朝名は我が志に非ず――孟母三遷、蘇軾の不遇――
三、温習督し来りて魯論を翻す――父としての面影――
四、雪に耐へて梅花麗し――一貫す――
五、胸中三省して人に愧づること饒し――炉上の雪――
六、平素の蘭交分外に香し――春夜の哀愁――
第五章 維新政府の主役
一、犠牛杙に繫がれて晨に烹らるるを待つ――葛藤と決意――
二、願はくは衰老をして塵区より出でしめよ――藍田の約、竹林の徒――
三、児孫の為に美田を買はず――玉砕瓦全――
四、遥かに雲房を拝して霜剣横たはる――大使としての節義――
五、後世必ず清を知らん――秦檜と岳飛――
第六章 隠遁生活
一、満耳の清風身僊ならんと欲す――郷里に隠遁――
二、陶靖節の彭沢宦余の心――帰りなん、いざ――
三、重陽相対して南山を憶ふ――悠悠自適――
四、静裡の幽懐誰か識り得ん――桃源郷――
五、嗤ふを休めよ兎を追ふ老夫の労を――運甓㈠――
六、躬耕は暁を将て初む――運甓㈡――
七、彭祖何ぞ希はん犬馬の年を――南華真経の教え――
八、生涯好き恩縁を覓めず――胡蝶の夢――
九、万頃の稌花笑語香ばし――鼓腹撃壌――
十、村静かにして砧声夜闌に起こる――李白と杜甫――
第七章 終焉
一、盛名終りを令くするは少なし――胯間の志――
二、禍福如何ぞ心を転倒せしめん――夫子の道は忠恕のみ――
三、千秋不動一声の仁――敬天愛人――
収録漢詩一覧
西郷隆盛略年表
人物相関図
あとがき
著者紹介
諏訪原 研(すわはら けん)
1954年,鹿児島県に生まれる。
大阪大学文学部卒業。現在,河合塾講師。福岡市在住。
著書―『ちょっと気の利いた 漢文こばなし集』(大修館書店,1999),『十二支の四字熟語』(大修館書店,2005),『四字熟語で読む論語』(大修館書店,2008),『漢文とっておきの話』(大修館書店,2012),『漢語の語源ものがたり』(平凡社新書,2002)
*著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。