いつ、どこで、どのように生まれたのか?
ときは19世紀末、上海租界の花柳界を賑わせていた賭博遊戯が、やがてアメリカのコマーシャリズムに乗って世界的な大流行を巻き起こす――ルールはおろか、呼び名さえ定まっていない混乱のなかで「誕生」し「成長」したマージャン百余年の物語。
著者メッセージ
四人のプレーヤーの座席が「東」・「南」・「西」・「北」の四方にあてられ、それぞれの方角の風が吹いて(荘家(おや)になり)、四季が一巡するとゲームが一段落するというしくみは、じつに巧妙である。古代中国の時空観を示す、『淮南子(えなんじ)』の「八風」にさかのぼるまでもなく、現在のわたしたちの季節と歳月の経過に対する実感で、じゅうぶんにそのシステムを理解することができる。また、その長大なシステムゆえ、風の循環も四巡をへたころには、なにやらプレーヤー間をただよい、移動する〝運気〟を感じたような錯覚さえおぼえるときがある。
このように包含する要素が豊富なゲームゆえ、大はゲーム・システムから、小は個々の用語や牌のデザインにいたるまで、さまざまな言い伝えが残されている。どこかで聞きかじってきた、それら縁起物語のたぐいを仲間と語りあうのも、また麻雀ならではの副次的な楽しみ方である。……(「はじめに」より)
主要目次
口絵
序章 よび名と、それが示すもの
「マージャン」への統一
中国における呼称
誤認された麻雀
絵画にみる麻雀
第一章 社交の麻雀
1 アメリカの熱狂
実業家たちの狂奔/ハーの進撃
2 一九二二年――ブームの発火点
広告のにぎわい/麻雀パーティー
3 ルーズなタイル?
落ちこぼれるな!/ミュージカル『マー・ジョン』
第二章 麻雀の核心
1 麻雀テーブル
本家の「パンウデーツ」/「碰和」の記録
2 特徴はポン
「フー」か「ホー」か/元祖「碰和」/紙牌ゲーム「馬吊」/「碰和」の原理
3 ドミノの「碰和」
「碰和」の変遷/小説にみえる変遷
第三章 租界が彩る麻雀
1 プレーの情景
『海上花列伝』の麻雀――清一色の多面待ち/海上塵天影』の麻雀――三元牌の魅力
『負曝閑談』の麻雀――清代の点数計算/海上繁華夢』の麻雀――ルールの変遷
『官場現形記』の麻雀――争いのもと/『九尾亀』の麻雀――定石とトリック
『十尾亀』の麻雀――テーブルを囲む怪人物たち/ユニークなプレーの数々
2 麻雀と伝説
創始者伝説と讖緯説/陳魚門創始説/迷走する「伝説」/秘密の公開と太平天国/日本固有の伝説
第四章 麻雀の起源
1 記号の変容
「索子」の変遷
2 変わり種牌
変幻自在な花牌
3 遊戯法の特徴
「碰和牌」を用いたゲーム/「風牌」の謎/一組三枚の謎/雀頭の謎
注/参考文献
おわりに
著者紹介
大谷 通順(おおたに みちより)
1956年生れ。中国文学者。北海道大学大学院文学研究科博士課程中退。北海学園大学教授。
《主な著書》
著書(共同執筆):『日中文化交流史叢書[5] 民俗』(大修館書店、1998年)
訳書:ウー・ホン『北京をつくりなおす――政治空間としての天安門広場』(国書刊行会、2015年)
論文:「故宮博物院の完全なる馬吊牌 (中)」『北海学園大学学園論集』第161号(2014年)
※著者紹介の情報は書籍刊行時のものです。