当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0451
「鯨(くじら)」は哺乳類なのに、どうして「魚」へんが付いているのですか?

A

それはもちろん、昔の人はクジラのことを魚だと思っていたからですよ。
と、お答えしようとして、ちょっと気になることが出てきました。漢字が生まれたのは黄河の中流域、つまり中国大陸のど真ん中。そんな、海から遠く離れた土地に暮らしていた人々が、クジラを初めて知ったのは、いつごろだったのでしょうか?
そう思って、小社『大漢和辞典』で「鯨」を調べてみると、『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』という書物から用例が引いてありました。この書物はだいたい紀元前3~4世紀ごろに書かれたとされていますから、遅くともそのころには「鯨」という漢字はすでに存在していて、意味としても、大きな魚(のような動物)を指していたことは間違いないようです。
クジラはあんなかっこうをしていますから、昔の人が魚だと思ったとしても、不思議はありません。ただし、ちょうどこのころ、古代ギリシアで活躍したアリストテレスという哲学者は、すでにクジラが空気を呼吸をすることを知っていたそうです。いやはや、恐るべし!アリストテレス!
では、中国人が「クジラは魚ではない」のを知ったのはいつごろなのでしょうか。詳しいことは存じ上げないのですが、ものの本によると、日本人が初めてそれを知ったのは、江戸中期、18世紀の半ばごろだそうです。だとすれば、おそらく中国人だって、それよりもそんなに早くない時期に、ヨーロッパ人から教えられたのでしょう。
というわけで、われわれ東洋人が「クジラは魚ではない」という事実を知ったときには、「鯨」という漢字はすでに2000年にも及ぶ歴史を持っていたのでした。今さら「けものへん」に代えようったって、そうはいかなかったのでしょうね。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア