当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0361
ある辞典では、「紫」は「糸」の6画、「柴」は「木」の5画となっていました。同じ「此」の数え方が違うのは、どうしてなのですか?

A

「此」の画数は、ふつう、6画として数えます。ところがご指摘のように、辞典によっては、「紫」を「糸」の5画にしたり、「柴」を「木」の5画に数えていたりすることがあります。どうしてこのような現象が生じるのでしょうか。
原因は、『康熙字典(こうきじてん)』にあります。18世紀の初めに中国で作られたこの漢字辞書は、現在に至るまで、漢和辞典の規範とされています。しかし、そこが神ならぬ人の子の悲しいところ、この偉大な辞書にも、間違いというものがあるのです。
『康熙字典』では、「紫」を「木」の5画、「柴」を「木」の5画と数えています。しかし、「此」は「止」の2画で数えていて、「止」は4画で数えていますから、「此」は6画でなければならず、明らかに矛盾です。そしてこの矛盾は、そのまま現代日本の漢和辞典にまで引き継がれていることがあるのです。
それでも、両者とも『康熙字典』の画数に従っているとすれば、それはそれでスジが通らないでもありません。しかし、ご質問のように、「紫」では「此」を6画、「柴」では5画に数えている辞典があるとすれば、それはそれは、さらに困った問題だといえるでしょう。
私自身は、そのような辞典を見たことはありませんが、そんな事態を引き起こした理由は、おそらく、「紫」は常用漢字なのに「柴」は常用漢字ではないことにあるのではないでしょうか。
現代日本の漢和辞典の世界では、常用漢字については『康熙字典』の権威よりも「常用漢字表」の権威の方が優先します。そこで、「紫」は『康熙字典』の呪縛から解放される可能性もあるわけですが、常用漢字でない「柴」の方は、その可能性は低いのです。実際問題としては、「常用漢字表」は画数を明示してはいないのですが、「紫」の場合は常用漢字だから画数をきちんと数え直し、「柴」の場合は『康熙字典』に盲目的に従った、ということはありえないわけではありません。
自己弁護するわけではありませんが、どんな辞書にも間違いはつきものです。しかし、その間違いを引き継いでいく必要は、どこにもありません。私も、自分が担当した辞書に間違いをみつけたら(!)、できるだけ早く直すようにしたいものです。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア