当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0317
「歴」を「厂」、「国」を「囗」と書くことがありますが、いつごろからこのように略されるようになったのですか?

A

一般的に申しますと、多くの場合、略字の起源についてはよくわからないものです。そもそも略字とは、だれか個人が作り出すというよりは、自然発生的に生まれていくものです。しかも、略字が使われるのは基本的にプライベートな場面であって、オフィシャルな文書の中には、記録が残りにくいのです。「歴」についてはまさにそのケースで、私が調べた範囲では、はっきりとしたことはわかりませんでした。
しかし、「国」については、ちょっとおもしろいことがわかりました。『大漢和辞典』で「囗」を引いてみると、まず最初に「めぐる」という意味が載っています。ところがその少し後に、「國の古字」としても使われた、という記述があるのです。
おもしろいのはその先で、その用例として、『商子(しょうし)』という書物の中に、「民弱囗強、囗強民弱」という文章が引かれているのです。現代日本語に訳せば、「民が弱ければ国は強く、国が強ければ民は弱い」とでもなるでしょうか。
この『商子』という書物は、『商君書(しょうくんしょ)』とも呼ばれるもので、中国の戦国時代末(紀元前3世紀)に書かれたとされています。だとすると、そんなに古いころから、「国(國)」を「囗」と書く書き方が存在したということになります。
とはいえ、それは、「国(國)」を省略して「囗」と書いたというわけではなさそうです。「古字」というのは、古くは「国(國)」を「囗」と書いた、という意味を表す専門用語ですから。むしろ、もともと「囗」と書いていたものを、後になって「国(國)」と書くようになった、という方が正しいわけです。
以上からすると、いま「国」を省略して「囗」と書く人がいるとすれば、その人は、いわば先祖返りをしているわけです。漢字というのは、このように、一方通行ではない変化を見せることもあるのです。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア