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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0187
「凛(りん)」の右下の部分が「示」ではなく「禾」になっている字が、パソコンで出ないのですが、どうしてでしょうか?

A

それは「凜」という字のことですね?ご質問のとおり、普通のパソコンのかな漢字変換では、この字を簡単には表示できません。しかし、だからといってこの字がJIS漢字に入っていないというわけではないのです。そこには、ちょっとした事情があるのです。
「示」の「凛」と「禾」の「凜」とは、異体字の関係にある漢字同士です。この字の右半分の「禀」または「稟」という字は、もともと穀物倉庫を表す漢字なので、その意味からすると、神様に関係する「示」ではなく、穀物に関係する「禾」を含んでいる方が本来の形だと考えられています。そこで、漢和辞典では、「示」の「凛」と「禾」の「凜」とについても、後者の方を正字として扱っています。
さて、1990年に人名用漢字が拡張された際、この字も追加されることになりました。人名用漢字は、異体字のある場合には原則として正字の方を採用しますから、当然のように「禾」の「凜」が新しく人名用漢字となったのです。ところが、この時点ではJIS漢字には「示」の「凛」しか収録されていませんでした。人名用漢字に入っているものがパソコンでは使えない、というわけにはいきません。そこで、時を同じくしてJIS漢字にも「禾」の「凜」が収録されることになりました。その際、同じく新たに人名用漢字となった「熙」という字も、JIS漢字に追加されています。
しかし、多くのパソコンのかな漢字変換ソフトは、この2文字の存在を無視しているようなのです。この2文字を普通の変換で入力することはできません。入力したいときには、MS-IMEならIMEパッドで、ATOKなら文字パレットで、手書きや部首や画数などの方法で探し出してやらなくてはなりません。そのため、多くの人が、この2文字はパソコンで入力できないと勘違いしているのです。
由緒正しい「正字」であり、人名用漢字にも登録されているにもかかわらず、パソコンの世界ではその存在をきちんと認知されていないこの2文字。私はかねがね、この2文字がとても不憫でなりませんでした。かな漢字変換ソフトを作っているみなさんには、この2文字にちゃんと日の目を見させて欲しいものです。

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