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第3回 品詞編

 辞典をひいたとき、項目の言葉の直後に書いてある品詞の情報。「名」=名詞、「動」=動詞、くらいはわかりますよね?
 「品詞なんて、辞典によって変わるわけないだろう」と思っている方も多いのでは?
 そして、なんのために品詞を書いているのか?
 例えば、「形容動詞」のことを「ナ形容詞」と呼ぶ辞典もある。
 実は品詞の項目は、編者の言語観がもっとも色濃く出ている部分であると言ってもいいのです。


 大きなブラックボックス 「連体詞」

 「大きな木」の「大きな」を国語辞典でひいてみましょう。どんな品詞に分類されているでしょうか。
 多くの辞典では「連体詞」という品詞になっています。連体詞は、名詞に接続する言葉、という非常にざっくりした分類なので、言葉のブラックボックスです。

  中型辞典の『大辞林』では「おおきな」は「形容動詞」と分類されていて
“形容動詞「おおき(なり)」の連体形から。現代語では連体形「おおきな」の形だけが用いられる”
と記述されています。さらに、連体詞とすると、「耳の大きな人」のように述語としての働きがある点が、ほかの連体詞(「あらゆる」「この」「たいした」など)と決定的にちがう点だと述べています。

細かすぎる3_品詞_大きな2

 『明鏡』では、「おおきな」は「連体詞」として分類したうえで、
“文語形容動詞「大きなり」の連体形「大きなる」の転”
としています。語法では、
“「体[肝っ玉]が大きな人」のような、形容動詞連体形の名残をとどめた述語用法もある”
と詳細な記述もあり、「大きい」と区別しています。

 

 

 

 

 

細かすぎる3_品詞_大きな1

 また、「おおきい」という項目の表現項目で、おおきいの連体用法として扱って
“抽象度の高い「大きな事件が起こる」「大きな問題を抱える」「大きな成功を収める」「大きな感銘を受ける」では「大きな」が優勢”
と、「大きい」との使い分けを指摘。

 

 

 

 『三省堂国語辞典』では、「連体詞」としていますがやはり
「大きい」に比べて数字であらわしにくい、
と「大きい」との比較をしています。

 こういった品詞分類は、そのまま辞典全体の言語観を象徴している場合もあるので、ぜひ注視してほしい。


 意見は一致するのもさせるのも難しい……

細かすぎる3_品詞_一致
いっ-ち【一致】〔名・自サ変〕
 「自サ変」というのは、自動詞でサ行変格活用をする、という情報です。この〔名・自サ変〕が意味するのは、名詞としても使うし、動詞としても使います、ということです。

 「一致する」という動詞があります。「する」をつけて動詞になる「勉強」「挨拶」は、どれも名詞であり、「する」をつけて動詞になる、動詞の一部です。
 どういう活用をするのか、という情報は、そのまま「どう使うのか」に直結した情報です。「意見が一致する」は自動詞ですよね。「意見を」の場合は「一致させる」になります。これは「一致する」が自動詞だからです。

 

 自動詞、他動詞は日本人には馴染みが薄いかもしれませんが、非常に大切な情報で、「ドアが開いている」のと「ドアが開けてある」のでは意味が180度違うように、文全体の意味を左右します。

 ちなみに、自動詞、他動詞も辞典によって分類が変わる場合があるので油断できません! 


 鬼のように多い使われ方!

 「鬼」のように、形がおなじでもさまざまな品詞になって使われ方が変わる言葉もあります。細かすぎる3_品詞_鬼

 想像上の怪物である「鬼」は「赤鬼」「青鬼」のように使われる名詞ですが、「鬼監督」「鬼刑事」で使われる鬼は名詞の頭につくので、これを接頭辞的なものに位置付ける場合もあります。『明鏡』では「造語成分」という分類を設けてこれを説明しています。
 接頭辞的な使い方といえば、「鬼あざみ」「鬼百合」「鬼やんま」など、形の大きいもの、という意味でも使われます。

 ほかの辞典では「副詞」という品詞も併記して「鬼かわいい」とかのように使い、「非常に。すごく。」の意味を記述するものもあります。 

 その辞典が、どういう品詞分類をしているか、ということは、意味の記述にも直結した問題である。
言葉の運用の仕方の情報だけではなく、意味記述にも必要な情報、それが「品詞」なのです。


◆蔵出し語釈◆
~サンキュータツオ的語釈の見所~
たかが1字されど1字。2ページにわたって「使いわけ」まであつく解説!
細かすぎる3_品詞_なとの

 『明鏡』の文法項目の詳細な記述は他の辞書と比較しても群を抜いている。「文法オタク」の域にまできていると言っていい。「な」などを丸々1ページ使って解説したあと、さらにこのように「な」「の」と後ろに来る語の関係についてみっちり書いている。意味や用法が揺れているものに関しては特に詳細に記述しているような印象をうける。「いまの日本語は、こういう使われ方してるから」という、後世に残す記録にもしようという使命感すら感じる!
細かすぎる3_品詞_なとの_メイキョン

 

 

 

 

 

 


 *「蔵出し語釈」は『辞書のほん』15号(2014年10月)記事の一部をウェブ用に再編集したものです。

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