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漢詩を作る

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 1998年、小社では「アジアの言語・文化・歴史を見つめ直す」叢書、〈あじあブックス〉を刊行することになりました。

 その第1期配本分の編集担当として、まずは、「過去を現代につなぐ」という、叢書のコンセプトを的確に示すラインナップにしたいと考え、第1冊目に選んだのが本書です。

 漢詩を作る――何気ないこの書名には、実は2つの意味が込められています。

 1つは文字通り、「漢詩を自分で作ってみる」ということ。

 まさか、川柳だってムリなのに漢詩なんて…とお感じの方もいらっしゃるかと思いますが、日本では、和歌(『万葉集』)より漢詩(『懐風藻』)のアンソロジーの方が先に編まれましたし、新聞に読者が自作を投稿する「漢詩欄」が大正期まで設けられていました。漢詩を作ることは、読書人、戦国武将、明治の文豪に至るまで広く行われてきた楽しみだったのです。

 著者・石川忠久先生によれば、「やってみれば思ったほど難しくない」「基本の簡単な規則を呑み込めば、あとはその面白味に引かれて、時間の経つのも忘れるほどになる。…ちょうどパズルのようなゲーム感覚でやれる。」とのこと。実際、本書に沿って
  ・韻 (いん)
  ・平仄 (ひょうそく)
  ・構成のしかた
  ・対句
を知れば、あとは実践あるのみ。スケッチから始め、だんだんと本格的な詩が作れるようになります。

 好評のうちに9刷を重ねた本書ですが、さらに腕を磨きたい、「サンタクロース」や「カッパドキア」なども漢詩に詠んでみたい、という向きは、門人への添削指導を紙上に再現した姉妹編『石川忠久 漢詩の稽古』(2015年、小社刊)も、ぜひご参照ください。

さて、書名のもう1つの意味は、「漢詩を作るとはどういうことか」を知る、ということです。例えば、

  千客万来 (せんきゃくばんらい)

の口調が良いのは、「客」が “仄”、「来」が “平” で互い違いになっている、すなわち「平仄」が合っているからだと気づいたり、張継の有名な詩「楓橋夜泊」の、

  姑蘇城外寒山寺

を「南城門外報恩寺」に替えてしまっては詩の心に合わないと感じたり、作る側に回ると分かることはたくさんあります。巻末の人名・詩題索引から、例として採られたお気に入りの詩人の作品を探して、作詩の工夫を味わってみるのも一興です。

 そもそも、本書の始まりは『月刊しにか』(現在休刊中)の特集「漢詩とは何か」の中の「漢詩を作る」という短い記事でした。作り手の立場で漢詩を捉えたこの記事が好評を得、リクエストにお応えする形で連載していただいたものです。

 連載中、東京・御茶ノ水の湯島聖堂にいらっしゃる石川先生の元へお伺いするのは、毎月の大きな楽しみでした。

 時には、御原稿の中の詩を詠んでくださることもありました。綺麗な北京語の発音に驚くと、昔、北京官話を話す先生にお願いして習ったんだよ、と事もなげにおっしゃり、また、中国の学者を招聘する中国語のお手紙もご自身で書かれていました。

 古典を鑑賞するだけに終わらず、自らも担い手として、その風雅な道につながる。本書を貫くこの考えを、日々実践しておられたのです。

 実践といえば、さすが儒学の聖地にいらっしゃる先生と、感服した出来事がありました。連載を単行本にまとめることになり、顔写真をお願いした折のことです。サンプルをご覧になった先生は笑って「おや、これはダメだな」とおっしゃいます。恐る恐る理由を伺うと、「読者に会うのにこの格好は良くないね」(見本はTシャツ姿でした)とのこと。

 サンダル履きのわが足元が恥ずかしく、思わずテーブルの下に隠したものです。

 後日お借りした背広姿のお写真は、わざわざ某百貨店の写真室で撮影されたものだそうです。本書を手に取られたら、どうぞひっくり返して、裏表紙の著者近影もご覧になってみてくださいね。  (編集担当 NT)

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