当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0420
戸籍で、名前に使われている「今」の字の中側が、「ラ」でなく「テ」になっていることがあるのですが、これはどういう漢字なのでしょうか?

A

042001図のような漢字のことをおっしゃっているのだと思います。確かに「今」とはちょっと違いますが、ただ、この漢字の場合、「いったい何という漢字だろう?」と首をひねることはあまりないでしょう。見た瞬間にだれもが想像できるように、「今」の異体字です。
漢字の世界には、いろいろと不思議なことがあるもので、昔からよく使われているにもかかわらず、字書にはなぜか収録されてこなかった漢字がある、というのもその1つです。この「今」の異体字も、角川書店の『書道大字典』を調べてみると、唐王朝の時代といいますから今から千数百年も前の中国の書家が、すでに使っていたことがわかります。
ところが、中国で18世紀の初めに作られた『康熙字典』にも、わが『大漢和辞典』にも、この漢字は収録されていないのです。その理由は不明ですが、だれが見ても、「今」の異体字だな、とすぐに推測がついてしまうことが、あだになっているのかもしれません。この漢字と「今」との字体上の違いは、字書に載せるまでもなく人間の頭の中で統合されてしまう、ということなのでしょうか。
だとすると、この漢字は見た目でだいぶ損をしてきたのかもしれません。ただ、お名前によく使われる漢字だからでしょうか、近年刊行された漢和辞典には、この漢字が収録されているものがけっこうあります。小社の『新漢語林』を初めとして、他社本を含めて、収録漢字数が1万以上のものを4つばかり調べてみましたが、いずれにも掲載されていました(ちなみに、総画数は5画になります)。
ということは、見た目が9割以上と言われる現代社会でも、漢字に限っていえば見た目は不利にはならない、ということのようです。まったく、人間サマとしてはうらやましい限りですね。

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