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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0364
「執着」の「執」は、「幸せ」に「丸い」と書きますが、あまりいい意味ではない漢字のように思います。どうしてですか?

A

確かに、「執」を含む熟語には「執着」「固執」「妄執」など、「何かにくっついて離れようとしない」という意味を持つものが多く、あまりいいイメージはありません。「幸せ」が「丸い」という太平楽なようすとは、結びつきそうにもありません。
036401漢字の成り立ちには諸説あるのがふつうなのですが、「執」については、だいたい一致しているようです。この漢字は、甲骨文字では図のように書きます。この右半分、つまり「執」の「丸」に相当する部分は、人がひざまずいて両手をそろえて前に出しているようすを表しているとされています。そして、左半分はというと、これは「手かせ」のことを表しているとされています。
そう言われてみると、この甲骨文字は、たしかに人が手錠をはめられてひざまずいている姿のように見えてきます。とすれば、それが「何かにくっついて離れようとしない」という意味を持っているとしても、何の不思議もありません。
036402しかし、ここで気になるのは、この解釈だと「幸=手錠」ということになってしまうことです。そこで、「幸」の甲骨文字を調べてみると、図のような形をしていて、「執」の左半分とまぎれもなく同じ形。やはり「幸=手錠」だということになるらしいのです。
「幸」の甲骨文字が「手かせ」の象形であることも、諸説だいたい一致しています。しかし、手錠の形を書いてそれが「幸せ」だとは、いったいどういうことでしょう?古代中国の人々は、そろいもそろってマゾだったのでしょうか。
この点については、説得力のある説明はなかなかないようです。一番多い解釈は、手錠を書くことによって逆に手錠から逃れられるという「幸せ」を表したのだ、というものですが、これはさすがに強引なように思います。
漢字の誕生は、今から3000年以上も前の話。そんな昔のことが、なにもかもわかっているはずはありません。「幸」の字源も、歴史の闇の中に横たわる謎の1つだと思うしかなさそうです。

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