当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0313
中国と日本では、漢字の筆順が違うようですが、どうしてでしょうか?

A

日本の学校教育での筆順は、文部省著作『筆順指導の手びき』(1958年)に従っているということは、Q0103でご説明しました。その『筆順指導の手びき』の成立事情について、読売新聞社会部編『日本語の現場』(読売新聞社、1975年)という本に、おもしろいエピソードが紹介されています。
当時の文部省では、この冊子を作るために12名からなる「筆順についての委員会」を設けて、その検討を始めたそうです。しかし、当初、2~3か月でまとめるつもりであった作業が、「第一回会合から荒れに荒れた」というのです。その結果、

ある書道の大家が「私の流派の書き順を認めないなら、切腹する」と、大臣室の前に座り込むという騒ぎにまで発展した

というのです。そして結局、『筆順指導の手びき』が完成するまでには2年もかかってしまったそうです。
「切腹」とはまたたいへんなことを言い出す方がいらしたものですが、このエピソードは、当時、書道の流派によって、筆順に大きな違いがあったことを物語っています。そして、現在、私たちが「正しい筆順」と思いこんでいるものは、実は、対立する流派同士の妥協によって出来上がったものなのです。
中国の筆順の成立事情については、申し訳ないことに、手元に資料がないのでわかりませんが、中国においても、書道の流派によって筆順が異なっていたであろうことは、容易に予想できます。それらを統一していく過程で、日本のものとは違った形で妥協することがあったとしても、おかしなことではありません。
そもそも筆順とは、より美しい字を書くための「手びき」にすぎません。絶対的なものではないのです。

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