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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0219
文化財の説明などを見ていると「著色」ということばを見かけることがあります。「着色」とはどう違うのでしょうか?

A

「著」と「着」とは、実はもともとは同じ文字だったんです、と申し上げると、驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれは、まぎれもない事実なのです。
021901「着」という字は、もともとは「著」の草書体から生まれたものだとされています。図の左側は、「著」の草書体の一例です。たしかに「着」と似ています。しかし、草書体を持ち出さなくても、たとえば図の右側のように、ちょっと崩された「著」の字を見ていると、これが「着」へと変化していくことは、十分に納得ができそうです。
形の上からは納得がいったとしても、読み方も意味も違うじゃないか、とおっしゃる方がいるかもしれません。しかし、もともと「著」には、私たちがよく知っている、チョと読んで「あらわす」という意味を表す場合の他に、チャクと読んで、いろいろなものを身につける、つまり「きる」という意味を表す場合もあったのです。それが、字形上、「着」が独立するにつれて、「チャク=きる」という意味はそちらが担うことになり、「チョ=あらわす」という意味だけが「著」に残ったというわけです。
このように、もともと同じ漢字を表す異体字の関係にあった2つの字体が、意味的にも別々のものを表すようになった例は、ほかにもあります。「脇」と「脅」はその代表的なもので、言われてみれば形の上からすぐに気がつくように、もともと同じ字で、「わき」と「おどかす」の2つの意味を持っていました。それが現在では、字体の分離とともに意味も分離して使われているのです。
「脇」と「脅」を混用する人は、現在ではほとんどいないでしょうが、「著」と「着」とは、おそらく分離した時代が比較的新しいのでしょう、現在でも混用されている例を見かけることが、ときどきあります。ご質問の「着色」を「著色」と書くのは、その例だと思います。
こういう現象を見つけると、「漢字も生き物だ!」って感じませんか?

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