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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0216
「ようす」ということばは、どうして「様子」と書くのですか?

A

このご質問は、単純なようでなかなか深いですね。「様」と「子」で、どうして「ようす」ということばの表すような意味になるのか、という疑問もおありでしょうし、ヨウシと読みそうなものなのにどうしてヨウスなのか、という疑問もおありでしょう。もっとも、「様子」と書いて「ようこ」と読み違えている方も、たまにはいらっしゃるのでしょうけれど。
さて、意味に関する前者の疑問、読みに関する後者の疑問、どちらを取り上げても、問題は「子」という漢字にありそうです。この「子」は、中国語では接尾語として使われることがあるのです。接尾語ですから、実質的な意味はあまりありません。前のことばにくっついて、響きを調える程度のことです。「様子」の場合は、意味としては「様」だけで十分で、「子」に実質的な意味はないのです。
実は、この働きをする「子」は、現代日本語の中にも意外とあります。たとえば「帽子」。帽子をかぶるのは、別に子どもに限ったことではありません。にもかかわらず、なぜ「子」が付くのか。実は、「帽」だけですでに「かぶりもの」の意味を表していて、「子」は接尾語なのです。
もう1つ例を挙げると、「椅子」があります。子どもから大人まで、みんなが椅子に座ります。なのに「子」が付いているのは、これも接尾語なのです。ところで、注意深い読者のみなさまはすでにお気づきでしょうが、この熟語では「子」をスと読んでいて、ここから、最初に挙げた読みに関する疑問の方へと移っていくことになります。
「子」をスと読むのは、唐音と呼ばれている発音です。これは、比較的新しい時代になって日本に入ってきた漢語に見られる発音です。ほかに例を挙げると、「扇子(センス)」「杏子(アンズ)」などがあります。これらのことばもみな、1文字目で意味は完結していて、「子」は接尾語に過ぎないことが、おわかりいただけると思います。
というわけで、「様子」ということばは、意味の上からも読み方の上からも、近代中国語から輸入された痕跡が色濃く残っていることばだ、ということができるでしょう。これがさらに現代中国語から入ってきたことばになると、同じような例が「餃子」のザ、「包子」のズなどに見られることになります。
どうです?「子」1つを取り上げても、いろいろありますでしょう?

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